「縮原発」の波 老朽廃炉反対の電力総裁解任
環境先進国フランスの挑戦(下)
フランスは、アメリカ、日本と並び原子力発電への依存度が高く、東日本大震災で被害を受けた福島第1原発の廃炉に向けた処理でも協力関係にある。そのためフランス人の日本の原発動向に対する関心は極めて高い。
実際、大震災直後から在日フランス大使館は在留フランス人向けに1日に2回以上メールで詳細な危険情報を流し続け、危機への対処は迅速かつ大規模だった。
フランスは、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故直後の情報の開示が十分でなかったために放射能の大気汚染を許した反省から、原子力安全規制局(ASN)による原発施設内で起きる事故等の即時情報開示などを行っている。さらに福島原発事故を受け、2014年には政府が「重大な原子力または放射線事故に関わる国家対応計画」を公開している。
それまで自治体レベルだった「民間安全保障に関する対応体制」(ORSEC)を国レベルで策定し、関係機関や省庁などを、首相と関係大臣が意思決定する省庁横断危機対策本部に集約して国家レベルで対応する体制を整えるものだ。これは日本で起こり得てもフランスでは起こり得ないと考えられてきた原発事故を想定し、そこから派生する危機に国家で対応する方針転換だった。原発への国民理解を得る努力とも言える。
ただ、原発大国のフランスも原発ビジネスが大きな曲がり角に立たされている。オランド現政権は、原発依存度を75%から50%に引き下げる公約を掲げ、縮原発の流れにある。全国の原発58基全てを保有・操業するフランス電力公社(EDF)の最高経営責任者(CEO)のアンリ・プロギリオ氏が、大株主の政府の意向で昨年秋に解任された。
フランス政府は老朽化したフェッサンハイム原発など20基以上の閉鎖の方針を打ち出しているが、プロギリオCEOは反発し、抵抗を続けていた。政府は昨年10月にエネルギー移行法を議会で可決し、再生可能エネルギーへの移行を加速させたい方針が、EDFのCEO更迭に繋(つな)がったと見られている。
さらに日本の福島原発事故後の核廃棄物処理に協力したフランスの世界最大手の原子力産業企業、アレヴァ社が、欧州加圧水型原子炉(EPR)事業で大きく躓(つまず)き、巨額の損失を計上し、今年に入り、経営陣の入れ替えが行われている。原発ビジネスに暗雲が垂れ込めている状況だが「原発に代わる代替エネルギーは今のところないのだから、縮原発を焦るのは現実的ではないと思う」(パリ在住の女性管理職)との意見は少なくない。
フランス人の多くは、原発への依存度の高さに隣国ドイツほど神経質ではない。今でも過激な反対運動(原子炉に抗議の落書きをするなど)を実行するのは、環境保護団体のグリーンピースぐらいだが、福島原発事故は原発のリスクと限界を多くのフランス人に感じさせている。
特に核廃棄物処分場問題は、フランス政府としても頭の痛い問題だ。放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が進めるフランス北東部ビュールに建設計画中の放射性廃棄物最終処分場は、議論が始まって24年がたつが、反対派の運動や訴訟等もあり、操業開始時期の目途(めど)は立っていない。
今年3月には仏ナンテール裁判所は、ビュールの処分場建設計画に反対する6団体が、ANDRAを相手取った裁判で訴えを却下している。同6団体は、あらゆる手段を通じて処分場建設に反対するとしている。ただ、地元住民が6団体と一枚岩ではないことは、ANDRA側の説明会に参加する地元住民が多くないことからもうかがえる。フランス人は原発に対しては現実的見方が大勢を占めている。
(パリ・安倍雅信)