難民の社会統合促進を
EUと難民 UNHCRウィーン事務所報道官に聞く(下)
鍵握る教育へ投資必要

――難民の分配問題だが、難民には居住国を選ぶ権利があるのか。それとも収容国が難民を選び、有資格者、高等教育修了者の難民を優先的に受け入れ、自国の労働力不足を解決する権利があるのか。
家族が欧州で既に住んでいる難民の場合、家族が住んでいる国に優先的に収容することはある。また、フランス語が堪能な難民の場合、フランスは容易に収容できるといった具合だ。EU側が独自の条件を掲げるかもしれないが、UNHCRは特定の基準を持っていない。
――欧州の殺到する難民の大多数はイスラム教徒だ。もちろん、敬虔(けいけん)な信者から世俗化した信者まで多様だと思うが、彼らはイスラム教圏からの出身者だ。一方、難民を受け入れる欧州は主にキリスト教社会だ。イスラム教徒出身者の難民の受け入れ先として欧州社会は理想だろうか。
UNHCRは意図的に古典的な宗教紛争、文化衝突を扇動しているわけではない。われわれとしては難民の統合問題を促進させることが重要だ。難民の中でも教育を受けてきた難民は、異文化社会でもそうではなかった者より容易に統合できる。統合の成否は教育にあると信じる。宗教の相違ではない。統合がうまくいけば、就業の道が開く。だから、難民受け入れ国は統合政策に力を投資すべきだ。例えば、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992~95年)では多くのボスニア国民がオーストリアに逃げてきた。彼らの多くは高等教育を受けた難民たちだった。彼らの多くは文化は異なるがオーストリア社会に統合し、国籍を得、成功を収めている者が少なくない。宗教の違いが問題ではなく、教育と統合への意思だ。
――難民問題が大きなテーマとなって以来、欧州各地で実施された選挙では民族主義的な政党、極右政党が得票率を伸ばしている。オーストリアでもウィーン市議会を含む2州の議会選でいずれも極右政党「自由党」が大飛躍した。フランスでも同様の傾向が見られたばかりだ。オーストリアの場合、過半数の国民が難民受け入れに批判的となってきている。民主主義国家は多数決原則だ。多数派が難民受け入れを拒否しているのにもかかわらず、難民受け入れを続けることは、民主主義の原則に反しないだろうか。極右政党の躍進もその点があるのではないか。
社会の多数派が少数派を無視し、全てを決定できるか、という別の問題が出てくる。問題は難民にあるのではなく、難民問題で一体化できず、分裂するEU側にある。テレビで連日、数千人の難民が列を連ねて国境にいるのを見る国民には不安が生まれてくるのは理解できる。世界では域内難民を含め6000万人の難民がいる。世界的視点からいえば、欧州に殺到する難民の数は非常に少ないのだ。欧州は連帯して難民問題の解決を見つけ出すべきだ。
(聞き手=ウィーン・小川 敏)





