欧州に今年1年で難民90万人殺到

EUと難民 UNHCRウィーン事務所報道官に聞く(上)

レバノンより少ない受入れ

 2015年は難民が欧州に殺到した年として記憶されるだろう。12月現在、欧州に殺到した難民総数は90万人を超え、大台100万人に迫っている。欧州連合(EU)28カ国の加盟国は押し寄せてくる難民の受け入れに苦慮し、受け入れに批判的な国は鉄条網を設置し、難民の入国阻止に乗り出している。そこで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)ウィーン事務所のルート・シェフル報道官に今年1年の難民問題の総括と今後の見通しについて聞いた。(聞き手=ウィーン・小川 敏)

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 ――2015年は北アフリカ・中東諸国から多数の難民が欧州に殺到した年となった

 UNHCRによれば、世界で約6000万人が故郷を追われ、難民生活を余儀なくされている。欧州では今年1年、約90万人が殺到した。大多数の難民は先(ま)ずギリシャに入り、バルカン・ルートでドイツなどに移動している。難民収容先としては、トルコで200万人以上、ヨルダンで約60万人、そしてレバノンで100万人以上だ。

 考えてほしい、あの小国レバノンで欧州全体より多い難民が収容されているのだ。難民の出身国としては、シリア、アフガニスタン、そしてイラクが上位3国。いずれも内戦が支配している国だ。

 ――なぜ、多数の難民が今年、欧州に殺到してきたのか。

 さまざまな理由が考えられる。われわれは昨年、シリアから難民の急増を既に目撃してきた。シリア内戦は5年目に入った。多くのシリア国民は内戦勃発後、数年間でこれまでの蓄えをほぼ使い尽くし、備蓄がなくなってきた。そこで故郷を捨てて安全な国に逃げていく。しかし、隣国のヨルダンやレバノンは小国だ。難民を収容できる資金がない。だから、シリア難民は欧州に向かう。多くはギリシャのレスボス島に移動した。もう一つの理由は、欧州で安全に生活できる可能性があると考えたシリア難民が動きだしたのだ。

 ――メルケル独首相が8月末、「ダブリン条項を暫定的に停止し、紛争下にあるシリアから逃げてきた難民を受け入れる」と発言したことが、難民の欧州殺到を引き起こすきっかけとなったという分析がある。

 メルケル首相の発言がシリア難民をドイツに殺到させた要因となったことは間違いないが、同発言は多くの要因の一つにすぎない。メルケル首相の発言前に、多くのシリア難民がハンガリーのブダペストの駅前に集まっていた。メルケル首相の発言は難民のドイツ行きのトレンドを加速させたが、繰り返すが、決して唯一の要因ではない。

 ――ジュネーブ難民条項によれば、政治的、宗教的、民族的理由で母国を追われた人を難民と明記しているが、欧州に殺到してきた難民の中には経済難民が少なくなかったのではないか。

 厳密には個々のケースを審査しなければ言えない。先述したように、難民の多い3国、シリア、アフガン、イラクは紛争状況下にある。彼らは欧州に入った難民の80%に該当する。その他、イタリアにはエリトリア、ソマリアから難民が殺到した。UNHCRの観点からいえば、彼らはジュネーブ難民条項に合致する。もちろん、難民の中には経済的理由から逃げてきた者もいるが、大多数は紛争地から逃げてきた難民だ。