難民への懐疑に警告

EUと難民 UNHCRウィーン事務所報道官に聞く(中)

問われる加盟国の連帯

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 ――欧州ではアフガン難民はもはや収容しないという声が高まっている。なぜなら、シリアやイラクとは違い、アフガンでは国民は居住できるからだ。

 例えば、オーストリアでは多数のアフガン難民がジュネーブ難民条項に合致する難民と認知されている。アフガンの少数民族出身者やタリバンの支配地域出身の難民は認知される。また、アフガンではイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」の影響が強まってきているのだ。また、アフガンからの難民にはイスラム教の少数宗派シーア派出身者がいる。UNHCRは最新の「アフガン報告書」をまとめている最中だが、アフガンの治安状況は残念ながら悪化している。

 ――「パリ同時テロ」事件後、テロ実行犯の中には難民を装ってバルカン・ルートから欧州入りした者がいたことが判明した。

 もちろん、難民の中にはさまざまな人間がいる。しかし、数人のテロリストゆえに難民全体を懐疑的に受け取ることには警告を発したい。難民受け入れで欧州社会を分裂させてはならない。われわれは多くの難民と会って話したが、彼らは本当に窮地に立っている。安全という観点からいえば、重要な点は難民がイタリアやギリシャに到着した段階で審査を実施し、難民がどのような人間かを掌握すべきだ。UNHCRは当初から主張してきたことだ。そうすれば、バルカン・ルートで難民が長い道を苦労してさまようこともなくなるはずだ。

 ――EUはトルコ政府と連携して難民審査センターを設置し、殺到する難民を抑制することで合意したばかりだ。

 まだ詳細な内容を聞いていないので評価できない。われわれの立場から言えば、トルコだけではなく、ヨルダン、レバノンに収容されている難民への支援強化が大切だ。また、難民が地中海を危険を冒してボートに乗り欧州入りしなくてもいいように対策を取るべきだ。

 ――ところで、EU28カ国中、難民の受け入れを実施している国はドイツ、オーストリアなど5カ国に過ぎない。メルケル首相が主張する難民の公平な分配は空言葉で終わっている。

 EU加盟国の連帯感の欠如を感じている。EUが難民に対する原則で合意することを願うだけだ。単にアピールではなく、求められているのはEU加盟国の連帯だ。

 ――欧州では殺到する難民の支援のために、非政府機関(NGO)ばかりか、多くの国民が支援活動をしてきた。彼らの動機は人道主義であり、難民への隣人愛、寛容がその根底にあるが、難民の殺到が絶えないことから、欧州の国民の間にも支援疲れが見えだした。 

 オーストリアの場合、政府や国民の間には難民支援への熱意は消えていない。もちろん、隣人愛、他民族への寛容だけでは難民問題は解決できない。EUの総人口は約5億人だ。そこに100万人の難民が殺到したとしても、各国で公平に分配すれば、その負担は微々たるものだ。難民問題が大きな負担とはならないはずだ。

(聞き手=ウィーン・小川敏)