政権基盤、全力で「日本取り戻す戦い」を 第2次安倍改造内閣スタート(上)
安倍晋三首相の「日本を取り戻す戦い」の第2章が始まった。2012年12月26日発足の第2次安倍内閣は、閣僚が一人も交代することなく戦後最長の617日続いた。今回の改造は、その記録に自ら終止符を打つもので、首相が熟考を重ねたことがうかがわれる。
政権の屋台骨となる政策課題や役割を抱えた6閣僚を再任して骨格を維持し、新しい目玉となる地方創生と安保法制に担当相を配置して政権の継続性と発展性を確保。半面、史上最多に並ぶ5人の女性閣僚を配して新鮮味を出しつつ「女性が輝く社会」実現に意欲を示し、一方で60人を超える自民党内の「入閣待望組」とそれを抱える各派閥にも一定の配慮を示している。
閣僚の椅子は18。自民党三役(幹事長、総務会長、政調会長)を合わせても21。その限られた中で、政策課題の「実行実現」、党内融和、政敵の牽制(けんせい)・封じ込め、党内外の要望処理など、複雑に絡み合った利害得失をバランスよく盛り込まなければならない。閣僚1人の人選が何通りもの意味合いを持っているわけだ。そのさじ加減を間違うとさまざまな不都合が噴出する。
今回の内閣改造・党役員人事で最大の焦点は石破茂幹事長の交代だ。首相サイドは防衛通の石破氏が最適との理由で安保法制担当相を間接的に打診したが、石破氏周辺では「来年9月の総裁選をにらんでの降格人事ではないか」との不信が生まれ、双方の関係が悪化。しかし、最終的に両氏が直接会って、石破氏が地方創生担当相として内閣入りすることで一段落し、首相は総裁選で最大のライバルになり得る石破氏を閣内に取り込むことに成功した。
一方、一時期、幹事長就任説も流れた宏池会会長で将来の総裁候補でもある岸田文雄外相も再任。また、自民党が野党時代に総裁を務め、与党復帰の立役者ながら首相になれなかった谷垣禎一氏(宏池会出身)を幹事長に充てることによって、効果的に石破氏を牽制する体制も整った。
安倍首相は第2次内閣で、総裁選を争った石原伸晃氏を環境相、林芳正氏を農林水産相に抜擢(ばってき)したが、2人とも目立った活躍ができず、かつての勢いを失った。石破氏は今後、人口減少に歯止めをかけて地方を活性化する難題に取り組まなければならず、改造前に堅実な働きぶりを見せてきた岸田氏も中国・韓国との関係改善、北朝鮮の拉致・核・ミサイル問題、北方領土問題など山積する難題を抱えている。両者ともこれからが本領を発揮すべき時だ。
また、谷垣幹事長も就任早々に福島県知事選(10月26日)と沖縄県知事選(11月16日)が控えており、来春には統一地方選が待ち構える。地方選勝利のためには党をまとめ上げて公明党との関係を一層強化しなければならず、その実力が試されることになる。
“ポスト安倍”に近い実力者が互いに牽制し競い合う体制を作った首相だが、その全てが実力を発揮してはじめて「日本を取り戻す」ことが可能になることを肝に銘じなければならない。
(政治部・武田滋樹)