地球温暖化阻止 米中の取り組みがカギ


 昨年11月(6~17日)、ドイツのボンで開催された国連気候変動締約国会議(COP23)を現地取材した。地球温暖化により 異常気象が加速度的に進み、世界が「脱炭素社会」に向け舵(かじ)を切る中、日米、欧州、中国やインドそれぞれの取り組みの違いを改めて確認した。
(論説委員・松崎裕史、写真も)

米自治体が「気候同盟」/トランプ氏のパリ協定離脱に対抗
中国、脱石炭へ時間稼ぎ/再生エネルギーに巨大投資

 今回初めて太平洋の島国フィジーが議長(バイニマラマ首相)を務める気候会議となった。開催前から、トランプ米大統領が、2015年、COP21において世界のほとんどの国が参加することで合意した「パリ協定」からの離脱を表明。さらに石炭火力発電の復活と石炭輸出まで許容する「CO2排出お構いなし」の政策が世界の懸念材料となっていた。

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COP23全体会場の議長席。中央にバイニマラマ議長(フィジー首相)、右隣にグテレス国連事務総長

 昨年夏、フランスのマクロン大統領が、トランプ大統領のスローガン“Make America great again”(アメリカを再び偉大にする)を批判する形で,“Make our planet great again”(私たちの惑星を再び偉大にしよう)と呼び掛け、COP23のフランスのパビリオンにもその言葉が掲げられていたのが印象的だった。

 バイニマラマ議長は開幕に当たり、「(低炭素化の)今の流れを維持するにも、もはや十分ではない時になっており、可能だと思う以上にさらに大胆に変化のペースを加速する機会にすることが フィジーCOP23を担当する私の意志であり、今世紀半ばには、温室効果ガス排出をゼロにしていくべきだ」と強い決意を語った。それは、南太平洋島嶼諸国のキリバス、ツバルやマーシャル、インド洋のモルジブなど極低海抜の島国を代弁する言葉でもあった。

 会議が始まった11月7日、シリアが「パリ協定」に参加し、批准することを表明した。これで米国を除く196カ国がパリ協定に参加することになり、米が孤立の様相を深めた。

ケイト・ブラウン氏

パリ協定に留まることを宣言している米国の市民と州のパビリオンで発言する米オレゴン州知事ケイト・ブラウン氏(中央右)=11月14日、ボン

 そんな中、米カリフォリニア州やオレゴン州、ニューヨーク市などは、「気候同盟」を組み、トランプ大統領の意向とは別に、”We are stil lin”(我々は未だパリ協定にいる)と表明し、他の自治体や多くの企業、NGOによるパビリオンでその主張を訴えていた。こうした米自治体の行動や世論の高まりが、政府決定をくつがえすに至ることを望みたい。

 日本は、安倍政権の下、高効率石炭火力発電とその技術をアジア諸国に輸出し、国内的にも石炭から離れようとはしない姿勢が批判され、国際機関から「20世紀へ逆戻りしている」と失望を買っていた。皮肉なことに、世界最大のCO2排出国(28%)中国の変身ぶりが際立っていた。

 習近平国家主席は、「低炭素社会の実現のために、再生可能エネルギーへの大転換を計り、エコ文明を発展させていく」と大きな投資をする決意を示していた。中国パビリオンでも、中国が変われば世界が変わるといわんばかりに再生可能エネルギーへの投資への期待を膨らませていた。

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COP23の会場の通路に掲げられた過去80万年にわたる大気中CO2濃度の変化グラフ。何度か同じ形の変動を繰り返したが300ppm前後が上限だった。工業化(1775年)以降増え続け、今年は403ppmに達している

 これを見て、「兎と亀」の話を思い出した。数年前まで中国は、「途上国77」の仲間として「石炭使用何のその」とCO2削減には、極めて消極的態度を示していた。

 かたや日本は、太陽光発電の技術を含め、再生エネルギーでは世界でも先頭を走っていた。今や、中国が兎のごとく走り始め、日本は石炭にしがみつく亀になってトランプ大統領と軌を一にした印象を世界に与えている。

 会議の終盤には、英国やカナダが主導した、「反石炭同盟」の国際連携の取り組みが注目された。今年ポーランドで開かれるCOP24まで、50カ国の加盟を見込むというものだ。

 EU内においても、意見は一致していない。ポーランドやチェコ、ギリシャなど5カ国は、石炭への依存度が高く、EUの規制に異議を唱えている。

 COP23の閣僚級会議で、フランスのマクロン大統領は「2021年には石炭火力発電を全廃する」と発言したが、国内課題を抱える東欧諸国への影響が及ぼせるか今後の課題とも言える。

 昨年夏、カリブ諸国、米本土にイルマ、ハービー、マリアなどの大型ハリケーンが次々と来襲、特にイルマは1日半にわたり最大風速300㌔(秒速83㍍)を維持するほど猛烈な嵐だった。

 パリ協定を実行に移すためのルール作りの話し合いは、途上国と先進国のギャップが埋まらず議長提案により今年早々から「タラノア対話」(タラノアはフィジー語で意思決定の透明性を意味する)をもって、支援基金やCO2削減の積み増しについて話し合われることとなった。

 世界の大企業や石油会社は、既に再生エネルギーへの投資へと向かおうとしている。いずれにせよ、世界一のCO2を排出している中国のエネルギーシステム転換が、21世紀のエネルギー転換を占う指標となることは間違いない。

再生可能エネルギー開発の加速を
低炭素技術で日本は貢献も

 国際機関の見積もりでは、化石燃料資源は、50年~100年分程の埋蔵量があると言われるが、地球温暖化やそれによる世界が被る災禍を考えれば、今や地下ではなく、地上に眼を向け、風力、太陽光等の再生可能エネルギーへ政策と投資の方向を大きく転換する時を迎えている。

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 実際、21世紀から風力や太陽光・熱など再生可能エネルギーによる発電の強化、運輸部門においても英国やフランスが、2040年までにガソリン・ディーゼル車の製造販売を禁止し、電気自動車(EV)へとシフトしていくことがCOP23開催前に発表された。世界の自動車メーカーはこうした動きに敏感だ。中国でも、EVへの検討が進められている。

 その一方で、国際エネルギー機関(IEA)によれば、2030年になっても、世界とりわけ、発展途上国の爆発的な人口増加の趨勢(すうせい)により、エネルギー需要のうち石炭、石油、天然ガスなど化石燃料の占める割合が約5割を占めると予測している(世界エネルギー概観2016)。これにどう対応するか。

 トランプ米大統領がパリ協定からの離脱を発表し、エネルギー源の一つとして石炭も重用するという立場をとっている。しかし、世界がこうむる異常気象による被害を少しでも減らしていくためには、米国のパリ協定への回帰が必須であり、中国や世界第3位のCO2排出国のインドが大きく再生可能エネルギー重視へ舵を切っていくことが求められる。

 わが国は温暖化対策の分野で優れた技術や知見を持ち、さまざまな政策を実施した経験の蓄積がある。特に低炭素技術の開発では、一日の長がある。既に技術支援が行われているアジアの途上国だけでなく、アフリカ、南米諸国への支援拡大が望まれる。途上国の排出量を減らす2国間クレジット制度(JCM)の普及も促進したい。

 COP23の閣僚級会議で、フランスのマクロン大統領は「2021年には石炭火力発電を全廃する」と発言した。2050年までに、CO2排出をゼロに、いやもっと早く、そこに向けて大転換をはからなければ、人類の被る被害は恐るべきものになりかねない。

(島嶼国家連合事務局長・中島 昌)