「PCR」の感度 最大70% “無症状感染者”ウイルス拡散

謎多き新型コロナ PCR検査の“限界”と抗体検査(上)

 「早期発見、早期治療が医学界の常識」だが、症状の表れ方がさまざまな新型コロナウイルスに対する決定的なワクチン・治療薬が開発されていない現状で感染拡大を抑止するには、検査で感染者をいち早く発見し、隔離を行いつつ当人の体力・抵抗力と既存薬でウイルスを“撃退”するしか方法がない。医療法人社団JOYの伊東エミナ理事長(医学博士・エミーナジョイクリニック銀座院長)は検査の主流になっている「PCR検査」に加え「抗体検査」の利点を活(い)かした、安心できる継続的な検査体制の構築を目指している。(編集委員・太田和宏)

抗体検査の必要性を語る伊東エミナ院長(加藤玲和撮影)

抗体検査の必要性を語る伊東エミナ院長(加藤玲和撮影)

 全国的な感染拡大に歯止めがかからないのはなぜか? その大きな原因として、「新型コロナに感染しているが、無症状の人、すなわち“無症状キャリア”が、感染していると気付かないまま社会活動を続け、人にうつして感染を拡大させている可能性が高い」と伊東院長は指摘する。

 また、「マスクをしていても、長時間または大きな声での会話や、接客業の従業員などの発した細かい飛沫(ひまつ)が空中に拡散(エアロゾル)し感染を拡大している可能性もある。これ以上の感染拡大を食い止めるには、より多くの無症状キャリアをできるだけ早期に見つけて隔離、予防措置を行うことが必須だ」(伊東院長)という。

 現在、健康保険適用でPCR検査を受けられるのは、37・5度以上の熱、咳(せき)などの症状があり、医師が必要と認めた人に対して、である。だが、PCR検査の場合、感染者を検出する感度は最大で約70%程度であり、100人感染者を検査すると30人は偽陰性(感染しているのに検査で陰性)となるため、見落とされてしまう。さらにPCRの感度は発症後1~2週間がピークで、その後は低下することが判明している。

 また、欧米や東大などの研究から、新型コロナウイルスの厄介な特徴として、2週間どころか3~12週間もの間ウイルスを放出し続ける場合が少なくないというデータが出ている。3週目以降は、PCRで検出しにくい期間となるが、そこで有用な検査が簡易抗体検査キット(以下抗体検査)による「IgM抗体」である。

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 ウイルス感染時にできる抗体には主に2種類ある。IgM抗体は、体内のウイルス活動性が高いことを示す抗体で、発症後1~2週間後に増加し始め、回復期に減少していく。ちょうど、PCR検査の感度が落ちる頃に、IgM抗体の検出感度が上がり始めるのも好都合だ。従って「IgM抗体陽性」の場合、人にうつす可能性が高いため、症状がなくても速やかに隔離が必要だ。

 もう一つのIgG抗体はいわゆる、過去に感染したことを示す抗体で、こちらに注目する人たちは、疫学調査に適していると主張している。

 無症状の場合、保険が適用されないため、コスト面でも、PCR検査が3万~5万円というのは懐事情に厳しい。一方で抗体検査は、1万円前後で、血液1滴・判定15分と鼻の奥の粘膜から検体を採取するPCR検査(最近は簡易キット、唾液での検査もあるが)よりも、簡便で定期的に検査を行う場合にも活用しやすい利点がある。

 「IgM抗体の検出で“無症状キャリア”を可能な限り発見し隔離・予防措置を取ることで、感染拡大抑止の打開策になるのでは。停滞した社会経済活動を復活させるきっかけとなることを願っている」と伊東院長は語り、同システムの構築と運用に向け奔走している。