震災の語り部を「生業」に、自治体も資金支援へ
伝承の担い手を次世代へ、資金面や後継者不足が課題に
発生から11年を迎える東日本大震災の被災地では、持続的な伝承活動の在り方を模索する動きが広がっている。資金面や後継者不足が大きな課題で、自治体も支援に乗り出した。
宮城県東松島市の一般社団法人「防災プロジェクト」の語り部ガイド中井政義さん(57)は、津波で自宅や職場が全壊。2012年10月から「生業」として語り部を始めた。高額な料金設定のため当初は不安もあったが、「時間も体力も使い、使命感を持ってやっているのでクレームはない」。
これまで約3万8000人が中井さんの話に耳を傾けたという。新型コロナウイルス流行の影響で活動機会は減ったが、コンサルティングの職歴を生かし、企業の防災に関する事業継続計画(BCP)のサポートを開始。「語り部を続けるためにも、新しい事業に挑戦したい」と意気込む。
県は21年4月、復興支援・伝承課を新設した。阿部博敬副参事は「語り部は年配者が多く、10~20年後にどう若い世代につなぐかが課題だ」と話す。同課によると、県内の語り部はほぼボランティアで、交通費や多少の謝礼が支払われるケースもあるが、生計を立てられるほどではない。
岩手県釜石市の久保力也さん(27)は、復興支援をきっかけに神戸市から移住。昨春、防災教育や企業向け研修などを行う株式会社「8kurasu(ハチクラス)」を設立した。当初はコロナ禍で講演ができず、ほとんど利益が出なかったが、オンライン研修などで経営を軌道に乗せた。
久保さんは「若者を伝承活動に呼び込むには時間に対する対価が必要。講演の準備にも数時間かかり、ボランティアでは限界がある」と指摘する。ただ、個々の語り部が予算交渉を行うのは容易ではなく、「今後はコーディネーターのような人材も必要だ」と語る。
宮城県石巻市では、今夏にも語り部や伝承団体の連携組織「震災伝承推進協議会(仮称)」を設立し、後継者不足などの課題について協議する方針。同県気仙沼市も昨年末から、ふるさと納税で伝承活動に要する500万円の寄付を募るなど、語り部の資金援助に動きだしている。