亡き母に届け、森重航選手が恩返しの銅メダル
両親の愛情を受けたどり着いた五輪の表彰台、最高の晴れ姿
スピードスケート男子500メートルの森重航選手(21)=専大=は、北海道別海町で酪農を営む一家に生まれた8人きょうだいの末っ子だ。地元から離れて働く兄や姉と写真に納まる機会はそうそうない。初めて顔をそろえて撮影できたのは2019年の夏。57歳で他界した母俊恵さんの葬儀だった。
がんの治療後、しばらくたってから転移が見つかった。「末期でね」と父の誠さん(68)。山形中央高から専大に進学して実家を離れた森重選手は、亡くなる数日前の俊恵さんに「スケートを頑張ってほしい」という言葉を掛けられた。
「本当にスケートに懸ける思いがそこで大きくなった」と森重選手。18~19年シーズンまでは、良くても35秒台後半だった500メートルのシーズンベストが、その後2シーズンは35秒台前半、34秒台と急激に伸びた。競技に傾ける思いの強さが結果にも表れ始めた。
「大学に入ってほとんど連絡をよこさない。年も年だから、あんまり親と話したくないんでしょう」という父の背中はどこか寂しげだが、実家のリビングには森重選手から届いたメダルの数々が飾られている。
息子は「うちのお父さんには小さい頃からスピードスケートを続けさせてもらった。恩返しというか、オリンピックで、見ていてよかったなあと思えるようなレースを贈りたい」。言葉は少なくとも父、そして天国の母から愛情を一身に受けてたどり着いた五輪の表彰台。輝く銅メダルという形で恩返しを果たし、最高の晴れ姿を見せた。(時事)