世界初、環境負荷の小さい木造衛星が宇宙へ


京大と住友林業が開発、2023年度の打ち上げを目指す

世界初、環境負荷の小さい木造衛星が宇宙へ

開発中の木材を使った人工衛星の試作品(京都大提供)

 京都大と住友林業は、世界初となる木造の人工衛星の開発を進めている。木造衛星は簡素な作りが可能で、環境への負荷も小さいメリットがある。将来、宇宙で木を育て人の居住空間に利用する遠大な構想も。今年度中に国際宇宙ステーション(ISS)で宇宙空間での劣化具合を調べる実験を始め、衛星は2023年度の打ち上げを目指す。

 木は電磁波などを遮断しないため、衛星に使えば通信機器やアンテナなどを展開する必要がなくなり、立方体などのシンプルな構造にできる。大気圏への再突入時は木の部分が完全に燃え尽きるため、アルミニウム合金などでできた衛星と比べ微小金属粒子の発生が少なく、成層圏などを汚染するリスクも低減するという。

 製作中の木造衛星は、縦横各10センチ、奥行き11・3センチ、重さは約1・1キロで、高度400キロ前後の地球低軌道に投入する予定。九州工業大が技術供与した電子基板やバッテリーなどを搭載する。全て木製とする予定だったが、ISSからの放出用にアルミのフレームを装着。太陽電池パネルやアンテナも外付けする。

 設計には京大の学生15人が参加。2年生を中心に電源や通信、内部の温度測定などチームに分かれて作業を進める。文化財の修復も手掛ける黒田工房(本社京都市)が木組みを担当。使う木材を決めるため、真空での耐性を評価する実験を地上で行っている。

 今年度中には、ISSの日本実験棟「きぼう」にある船外実験プラットフォームの装置で、木材を約9カ月間、放射線などが飛び交う宇宙空間にさらし、どのように劣化するか確認する。住友林業は、理論的考察などを基に、1年間さらされても板の表面の消失は1ミリ未満で、実用に耐えると予測する。

 「宇宙木材プロジェクト」の研究代表者で元宇宙飛行士の土井隆雄京大特定教授は「人類の進化と発展を助けてくれてきた樹木は、人類が宇宙に発展するのも助けてくれるだろう」とコメントした。京大大学院農学研究科の仲村匡司教授は「極限の環境で活動する人類の安らぎには、人との親和性の高い木材が必要だ。衛星は宇宙での木材利用の大きな一歩になる」と意気込む。