熱海市など、盛り土安全策の措置命令を見送る
10年前に危険性認識も、業者の防災工事開始で見送り
静岡県熱海市で7月に起きた土石流災害で、市が2011年、崩落起点に盛り土を造成した業者に向け、安全対策を強制的に行わせる「措置命令」の文書を作成しながら、命令を見送っていたことが18日、県や市、関係者への取材で分かった。業者が文書の作成後、防災工事を始めたためという。
県と市は約10年前から危険性を認識し、業者側に行政指導を繰り返していたが、より重い行政処分である措置命令は、結局出されることはなかった。
崩落起点の土地は、神奈川県小田原市の業者が06年に取得し、09年から土砂搬入を開始した。熱海市への届け出では、盛り土の高さは15メートルだったが、実際は3倍ほどの約50メートルあったと推定される。
関係者によると、熱海市は静岡県と相談し、約10年前の11年6月、「土砂の崩壊や流出により災害の恐れがある」として、業者側に「県土採取等規制条例」に基づいて、災害防止策を講じるよう命じる文書を日付を入れずに作成した。また、市から業者に対し、弁明を求めた。
しかし、業者側が盛り土に仮設の排水路を設置するなど防災工事を開始したため、命令は見送られたという。その後、業者側とは連絡が取れなくなった。
18日に記者会見した静岡県の難波喬司副知事は、熱海市が措置命令の文書を作成したことを認めた上で、「命令を出す必要はあったと思うが、(業者が)従っていたかは別問題だ」と話した。また、同市の斉藤栄市長も会見し、「今回のような大規模な崩壊が起こるという認識は持っていなかった」と述べた。
県と市は盛り土の造成について行政側の対応を検証しており、今後弁護士や学識者からなる委員会を設置して年度内に検証結果を取りまとめる方針。
土石流災害ではこれまでに26人が死亡。1人が行方不明となっており、132棟が被害を受けた。