書誌学がテーマの企画展、国立公文書館で開催中


「おしゃべりな本たち-謎解き!紙と文字から探る内閣文庫‐」

書誌学がテーマの企画展、国立公文書館で開催中

近衛前久の自筆と伝わる「三十六人歌合」。表紙の龍などを手掛けた絵師は狩野探幽=9月(石井孝秀撮影)

 本の形や紙の素材、虫食い、書き込みなど、本に残されたさまざまな手掛かりを科学的に分析し、記述された時代などを探る学問を「書誌学」と呼ぶ。今年で開館50周年を迎えた国立公文書館(東京都千代田区)で、それを記念し連続企画展「おしゃべりな本たち-謎解き!紙と文字から探る内閣文庫-」が開催中だ。

 冒頭に展示されている「平家物語」(江戸時代前期写)では、「紙の謎」に注目。厚手で光沢・張りのある紙が使用され、文字の墨もにじんでいないことから高級紙であることが分かる。さらに各ページには金銀での装飾も施されているのだが、中身を読んでみると乱丁・落丁が多いことに気付く。これらのことから、この資料は読むためのものではなく調度品として作られたものであることが分かる。

 江戸時代17世紀ごろは特に大名家で嫁入り道具用に高級な本が作られていたという事例があり、その類いのものではないかと推測できる。

 本の装丁も立派な資料になる。その例として展示されている「三十六人歌合」(1594年写)の表紙は、見返しに金箔(きんぱく)の上に龍が描かれるなど豪華な作りとなっている。絵を手掛けたのは絵師・狩野探幽。一方で本の中身は、当時流通していた比較的安価な紙に文字が記載され、書写された時期と装丁された時期に差があることが見えてくる。文章を書いた人物は、戦国時代末期に関白・太政大臣などを務めた公卿・近衛前久。表紙タイトルの文字は別人の筆跡で、こちらは前久の孫で後水尾天皇の実弟・近衛信尋で、これらの状態から推理すると、祖父である前久の残したものを孫の信尋が見つけ、祖父の書を飾るために装丁を施したと考えられる。

 このように資料全体を調べてみることで、その背後のさまざまなストーリーが想像できる。入場無料、11月28日まで。(石井孝秀)