中小事業者の廃業が急増、コロナが迫る選択
第三者への承継を望む事業者、「資源」の橋渡しがカギ
新型コロナウイルスの流行で中小事業者が選択を迫られている。東京商工リサーチによると、2020年に休廃業・解散した企業は過去最多の約5万件。以前からの後継者難にコロナ禍が追い打ちをかけた。現状のまま事業を続けても将来展望は描きにくく、第三者への承継を望む事業者は少なくない。これまで地域経済や雇用を支えてきた「資源」を新たな受け皿にどう橋渡しするかが課題だ。
「こんなにいい店をつぶしてはいけない」。東京・新宿を中心に飲食店を展開する「絶好調」(東京)の吉田将紀社長(45)は昨年8月、炉端焼き発祥の店として知られる仙台市の老舗「郷土酒亭元祖炉ばた」の経営を引き継いだ。
経営権を譲渡した2代目店主の加藤潔さん(78)は跡取り不在で廃業を決意したが、閉店を聞きつけて店を訪れた常連客の吉田社長に「引き継いでもらえないか」と持ちかけた。承継後、若者向け新メニューなどの効果で客層も広がり、「炉端焼きの文化を残しつつ、盛り上げてくれている」と胸をなで下ろす。
ただ、こうして事業承継先に恵まれるのは少数派だ。企業の合併・買収(M&A)助言のレコフによると、事業承継を目的としたM&Aは今年1~7月に348件と、過去最高だった昨年の622件に迫る勢い。一方、高齢化などで第三者に事業を引き継いでもらいたいと考える中小事業者数は約57万7000に上るとみられ、引受先が見つからなければ、いずれ廃業を迫られる。
事業の買い手と売り手を結ぶ新たな仕組みが、企業譲渡案件を掲載するM&A仲介サイトだ。昨年10月、業務用食品卸の西原商会(鹿児島市)は「ビズリーチ・サクシード」を介し、赤字経営だった栄養士向け会員制サイトの運営会社を買収した。取引先飲食店の営業自粛で売り上げが大きく減る中、栄養士の知見を生かして病院や介護施設に給食のレシピを提案。食材納入につなげ、本業の強化を図る。人材紹介業の免許も取得し、栄養士と食品メーカーを結ぶ人材仲介ビジネスにも参入した。
地元の実情に精通した地域金融機関も橋渡しの役割を期待される。中小企業向けのM&Aを手掛ける日本協創投資(東京)の桜田浩一会長は、「地域金融機関が地元企業の存続に貢献し、手数料収入などで収益を上げる機会だ」と指摘する。