障害者や高齢者など当事者参画でデザインに反映
国立競技場設計責任者「個尊重の時代、使いやすいUDを」
東京パラリンピックの熱戦が繰り広げられる国立競技場は、誰もが利用しやすい「ユニバーサルデザイン(UD)」で「世界最高水準」を掲げる。基本設計の段階から障害者や高齢者など多様な団体が参画。設計責任者は「個人を尊重する時代には、設備の数だけでなく、使いやすさにも配慮したUDが求められる」と語る。
英国の建築家ザハ・ハディド氏(故人)による2014年の当初案では、車椅子席は120席で全座席の0・15%だった。国際パラリンピック委員会(IPC)の基準を大きく下回っていたが、基本設計が済んでおり修正は難しかった。
高額な建設費などから15年に計画が白紙撤回されると、基本設計の段階から障害者や子育て支援など14団体が参画。19年までにワークショップを21回開き、デザインを練った。
点字ブロックは、視覚障害者に必要だが車椅子が通る際は支障になる。工夫を重ねてブロックの高さを従来の半分(2・5ミリ)に抑え、両者のニーズを満たした。多機能トイレは5種類、車椅子席は約500席を設置。知的、精神障害のある人が気持ちを落ち着かせる「カームダウン・クールダウン室」も備えた。
設計責任者はスタジアムの設計に長年携わる大成建設建築設計第二部部長の川野久雄さんが務めた。初めて知ることばかりだったと振り返り、「一方的にデザインを押し付ける時代は終わっている。建築家には多様な意見をコーディネートする役割が一層求められる」と話す。
UDが専門で東洋大人間科学総合研究所客員研究員の川内美彦さんは「レガシー(遺産)にするには、得られた知見を社会全体で共有できる仕組みが求められる」と訴えた。