トライアスロンの宇田秀生、粘って涙の銀メダル
「すごく幸せ」、持てる力を全て振り絞り殊勲のメダル
フィニッシュラインを越えるとその場に倒れ込み、目からは涙が止めどなく流れた。トライアスロン男子(運動機能障害PTS4)の宇田秀生(NTT東日本・NTT西日本)がパラリンピック初出場で殊勲の銀メダル。「最後まで諦めず前だけを見て走った」。持てる力を全て振り絞った。
最初のスイムでは10人中8位。海外勢とは差が開いたかに見えた。「ランのことは考えずにバイクで攻めるだけ攻めて、あとはどうにでもなれという気持ちだった」。必死にバイクをこぎ、スイムで先を行ったライバルを次々と追い越した。
大会前、宇田は「バイクとランでしっかり前の選手を追って、粘り強いレースができれば」と話していた。スイムの出遅れは想定内。バイクで順位を3位まで上げ、自慢の粘りを生かせる展開に持ち込んだ。ランの後半でさらに1人を抜くと、何度も拳を突き上げながら最後の直線を駆けた。
陽気な性格で、幼少期からサッカーに打ち込んだ。地元の滋賀県代表に選ばれるほど力をつけた。大学卒業後は建設会社に入社。順風満帆な日々だったが、仕事中に不慮の事故に遭って右腕を失った。結婚して5日後の出来事だった。
失意の底にいた宇田の支えになったのが家族の存在。妻の亜紀さんはアスリートフードマイスターの資格を持ち、食事面でも寄り添った。レース後に真っ先に電話をすると、うれしさのあまり家族も泣いていたという。
競技を始めてから著しい成長曲線を描き、パラリンピックのトライアスロンで日本勢初のメダリストになった。「右腕を失ってからここまでいろいろあったけれど、結果オーライ。すごく幸せ」。涙を拭ってそう言った宇田の表情は、どこまでも明るかった。