レスリングの乙黒拓斗、世界王者ラシドフに雪辱
1年延期でレベルを上げた攻守、成果を実感し決勝へ
勝った瞬間、乙黒拓は右腕を振り上げた。準決勝で世界王者のラシドフを3-2で破り、銀メダル以上が確定。「3試合、集中して戦えた」。言葉に自信がみなぎっていた。
ラシドフには2年前の世界選手権で完敗している。「スポーツ選手として、2回連続で負けるのは屈辱」と気合を入れた。第1ピリオド、鋭い踏み込みで片足タックルを決めて2点先制。後半は素早いステップワークで反撃をいなす。1点差でも、常に試合を支配していた。
2018年に日本男子最年少の19歳で世界選手権を制した。少々の失点は気にせず、常に攻めて大量得点を狙いにいくスタイルだった。だが、その後は研究されて攻撃が通用しなくなり、翌年の世界選手権は3回戦でラシドフに敗北。故障もあり、納得のいくレスリングができなくなっていた。
五輪の1年延期は、乙黒拓にはプラスに働いた。相手のタックルをつぶす技術や組み手を改善し、攻守にレベルを上げた。この日は3試合とも比較的ロースコアの展開で制し、「準備してきたことができた」と成果を実感。決勝に向け、「五輪というより、一つの大会として捉えて、あと一つ勝ちたいという思い」。気負いなく、金メダルに挑む。