前橋市に滞在1年9カ月「もはや群馬代表」


市民ら応援、南スーダンのモリス・ルシア選手が競技開始

前橋市に滞在1年9カ月「もはや群馬代表」

前橋市の矢作真美さんの長男と交流するアブラハム選手=6月、前橋市(矢作さん提供)

 前橋市で事前キャンプを続けてきた東京五輪の南スーダン選手団が2日、陸上競技の予選に出場した。選手らの滞在は、五輪延期を経て1年9カ月近くに及んだ。市の支援を受け黙々と練習を重ねてきた姿に、「もはや群馬、前橋代表だ」との声も上がる。支えてきた市民らは「堂々と戦って」と健闘を祈る。

 2日の女子200メートル予選には、モリス・ルシア選手(20)が出場したものの、準決勝進出はかなわなかった。グエム・アブラハム選手(22)は3日の男子1500メートル予選を走る。

 選手やコーチら5人は2019年11月に来日したが、政情が不安定で新型コロナウイルスの影響を受ける南スーダンに戻るリスクは大きく、選手らは日本での練習継続を希望。前橋市も、ふるさと納税で滞在費を集めるなどして支援した。

 前橋市の会社員矢作真美さん(38)は、来日から3カ月後の2020年2月にアブラハム選手と出会った。長男(4)を「高い高い」と抱き上げてくれたことをきっかけに自宅へ招くようになり、慣れない異国での生活をサポートした。間違えて購入したみそを、欲しかったピーナツバターと交換してあげたこともあった。

 アブラハム選手は長女(11)と次女(9)の持久走の練習に顔を出し、走り方などを教えてくれた。指導のかいあって、長女は昨年、学校内の大会で初めて入賞した。矢作さんは「アブラハムとの毎日は面白いことの連続だった。子供たちにとっても良い経験になったと思う」と振り返る。

 本番直前の7月29日、アブラハム選手から選手村の消印で手紙が届いた。「充実した練習ができている。本番ではベストを尽くす」とつづられていた。矢作さんは「順位は関係ない。南スーダン代表として堂々と戦ってほしい」と祈るように話した。

 同市の会社員山岸正範さん(44)は、来日当初からコーチとしてルシア選手の指導に当たった。五輪延期が決まってからの1年間はウエートトレーニングも取り入れ、試合前の調整方法などを身ぶり手ぶりで伝えた。

 外部との接触を遮断するバブル方式などのため、山岸さんは選手らに同行できず、本番を市内の勤務先で迎える。「やれることは全てやった」と言い切り、「あとは自分を信じて頑張ってほしい」と力を込めた。