中坊徹次京大名誉教授、クニマスの「卒論」完成


西湖で「絶滅種」発見から10年、残る謎は冬産卵だけ

中坊徹次京大名誉教授、クニマスの「卒論」完成

上皇陛下と研究するハゼについて説明をする京都大の中坊徹次名誉教授2018年12月、京都府宇治市(時事)

中坊徹次京大名誉教授、クニマスの「卒論」完成

中坊徹次名誉教授がまとめた新著(時事)

 絶滅種に指定されていた秋田県・田沢湖の固有種クニマスが山梨県・西湖で発見されてから10年。この偉業で中心的な役割を果たした京都大の中坊徹次名誉教授(71)が、発見の詳しい経緯や「絶滅」に至る背景などを本にまとめた。新著「絶滅魚 クニマスの発見」(新潮選書)を前に、中坊氏は「私にとって、この魚を次世代に託すための『卒論』。これまで流布されてきた発見の経緯は事実関係が違っている点があり、本当のクニマスの姿を知ってもらいたいとの思いを込めた」と話す。

 クニマスは田沢湖にのみ生息するとされていたサケ科の淡水魚で、1940年ごろ絶滅したとみられていたが、卵が戦前に移植されていた西湖で2010年に捕獲された魚が深い湖底で産卵していたことに中坊氏が着目。DNA分析などで、環境省のレッドリストで絶滅種に指定されていたクニマスと確認し、その生存が70年ぶりに明らかになった。

 中坊氏は、見た瞬間に同氏がクニマスだと分かったとした10年前の報道に関し「一見しただけで、分かる魚ではないということをまず知ってほしい」と強調。その理由を「今後、正しく保全していく上で大切なこと。対象の魚のことが分からなければ、間違った方向に進むこともあり得る」と説く。クニマスが田沢湖で死滅する原因となった川の水の引き込み事業にも触れ、「単純に断罪できない時代背景があった。経過を知ることも重要だ」と述べた。

 新著には研究者としての心得が随所にちりばめられており、中坊氏は「クニマスで分からないことは、(他のサケ科では見られない)冬産卵だけになった。若い人たちにも読んでもらい、この謎の解明に挑戦してほしい」と力を込めた。