北が主張する「水爆」実験 ブースト型核分裂弾か?
韓国で核武装論が再浮上
1月6日、北朝鮮が成功したと発表した「水素爆弾」実験はマグニチュード5・1と推測される地震を発生させた。これはTNT火薬に換算して20㌔㌧の原爆の威力に相当し、水爆実験ではなく「ブースト型核分裂弾」と推定される。
広島、長崎級原爆の威力は10~20㌔㌧でブースト型核分裂弾は40~150㌔㌧。水爆は1メガ㌧以上の爆発力をもつため、水爆実験は海上の岩礁で行うのが常識だ。
冷戦時代、米国とソ連も水爆を完成する前段階としてブースト型核分裂弾の実験過程を経た。これは中・長距離弾道ミサイルに搭載できる小型化に適合した核兵器であり、死の灰(放射能)の降下物質も発生しないメリットがある。
今回、4回目となる核実験の背景には牡丹峰(モランボン)楽団の北京公演キャンセルと中朝外交摩擦がうかがえる。さらに、日韓の慰安婦合意と日中韓首脳会談に焦りを感じた北朝鮮が正面から突破口を開く目的もあろう。金正恩第一書記の誕生日(1月8日)のプレゼント、住民の士気高揚という意味もある。
従来は弾道ミサイルの発射実験の後に核実験に踏み切っていたが、今回、順番を変えたのは機密維持のためだろう。金第一書記は就任以降、大掛かりな粛清と恐怖政治を繰り返すことによって、ブレーキを掛けるスタッフ・参謀がほとんどいない。昨年末、軍用トラックとの衝突事故で死亡した金養建統一戦線部長も対外融和路線を主張する穏健派の党官僚だが、軍部強硬派との権力闘争で除去された可能性が高い。
2014年3月、北朝鮮外務省は「新たな形態」の4度目の核実験を示唆したことがある。今回の核実験の狙いは米国に敵対政策の撤回を求めるシグナルだ。北朝鮮は普段から「核とミサイルは米国を狙っている」と繰り返し言及してきた。
もう一つの狙いは核と弾道ミサイル技術の中東など海外への輸出だ。1980年代、北朝鮮はイランに弾道ミサイルを大量輸出してオイルマネーで核開発を加速させた。パキスタンにも弾道ミサイル技術を提供してカーン博士からウラン濃縮技術を移転してもらった。
今回、北朝鮮の挑発に衝撃を受けた韓国では核武装論が再浮上した。2013年に北朝鮮が3回目の核実験と長距離弾道ミサイルを発射した時も、韓国では核武装論が浮上した。当時、与党が国民投票で核武装を決定すべきと主張したところ国民の68%が賛成した。
朴正煕大統領は1975年6月26日、ワシントン・ポストとの対談で「米国がもし核の傘を撤収すれば、核兵器を含む、私たちの生存を保証することができるすべての必要な措置を講じたい」と表明した。韓国の核武装の正当性は核拡散防止条約(NPT)第10条に、他国の核兵器によって国家の至高の利益が脅かされる場合は3カ月前に通報して脱退できる旨が記されている。
冷戦時代、米ソの核保有競争が「恐怖の均衡」をもたらし、第3次世界大戦の勃発を封じ込めたとの評価もある。韓国の核武装論は北朝鮮の核を無力化すると同時に武力による赤化統一の野望を捨てさせるための「条件付き核開発」だ。「北が核兵器を放棄すれば韓国も核兵器開発を放棄する」という条件付きだ。このような韓国の核武装論は外交カードとして米国の対中圧力や中国の対北核放棄圧力に活用できる。
韓国の国防科学研究所は月城原発の4つの加圧重水炉で毎年416個の核爆弾を作れるプルトニウム2500㌔㌘を生成できると分析、韓国はこれを利用して5年以内に数十個の核弾頭を作る能力を持っているという。
ただ実際に核兵器の開発に踏み切れば、その衝撃は計り知れない。現時点では、韓日米が一体化して中国も巻き込み、北朝鮮の暴走を食い止めることに総力を注ぐべきだ。
(拓殖大学客員研究員・韓国統一振興院専任教授)