「拉致問題」解決の近道
今回、平壌での日朝協議で北朝鮮の出方は予測した通りだ。結論から言えば、拉致被害者を帰国させる近道はカネ(経済支援カード)しかない。
北朝鮮は、1965年の日韓国交正常化の際、韓国が日本から無償・有償・民間融資あわせて8億㌦以上の経済協力金をもらって経済成長を成し遂げた先例を踏まえ「朴正熙開発独裁」を真似ているようだ。
北朝鮮は三大国家目標のうち「思想大国」と「軍事大国」は洗脳教育及び核・弾道ミサイル開発で相当整えた。しかし、当面の課題である「経済大国」の基盤が整わないと体制崩壊の恐れがある。
貧富の格差が反体制デモに発展する恐れがあり、金正恩体制崩壊の火種になるからだ。韓国の宣伝ビラ風船に砲撃したことがそれを裏付ける。これはまた、3代後継体制が不安定という証しでもある。
中国は金正恩第一書記が失脚した場合を想定し、異母兄の金正男を親中指導者に擁立したいとの思惑から彼を保護している。最近の「クーデター説」、「金正恩軟禁説」など未確認情報が中国筋から出回ることも、それと無関係ではあるまい。
小泉純一郎首相(当時)は2002年と04年の2回訪朝し、5人の拉致被害者とその家族を帰国させる成果を上げた。金正日総書記が日本人拉致の事実を公式謝罪し、5人の拉致被害者を帰国させたことは小泉氏の外交的な勝利ともいえる。外貨不足で喉から手が出るほどカネが欲しい金正日氏の本音を突いた外交上の駆け引きが効いたわけだ。
筆者は北朝鮮が横田めぐみさんを含め、拉致被害者を返さない本当の理由は次の3点だと考える。
第一に、将来、日朝国交交渉において戦後補償と経済協力金を獲得するための人質である可能性が高い。第二に、金正日総書記が日本人拉致を公式謝罪し5人を帰国させて「解決済み」の立場なのに今さら、それを引っ繰り返したくない。
第三は、横田めぐみさんをはじめ拉致された日本人が情報及び工作機関の要職に就いている可能性がある。彼らが日本に帰国すれば北朝鮮の最高国家機密・工作機関の組織が露呈する恐れがある。その場合、原状回復には相当の歳月と巨額の予算が必要だ。情報工作・心理戦が巧みで機密保持を最優先する北朝鮮にとって大きなダメージとなる。
以上のような三つの理由(推測)を日本が覆すには、経済支援カードが最も有効だ。小泉元首相のように、そのカードを生かして最大限の成果を上げるための厳しい交渉に臨むべき時期だ。それこそ、日本人拉致被害者を早期帰国させる近道ではないだろうか。
(拓殖大学客員研究員・元韓国国防省北韓分析官)