日朝国交正常化の限界
日本と北朝鮮の凍りついた関係に解氷ムードが漂い始めた。
19世紀英国の名宰相パーマストン子爵が指摘した通り、国際関係には永遠の味方も永遠の敵もなく、自国の国益を追求するのみだという現実を実感 する。
最近の動きは日朝双方にとっていいタイミングであり関係緩和のチャンスでもある。北朝鮮が拉致被害者及び行方不明者の全面再調査を約束したのは 前向きな融和ジェスチャーだ。その背景には経済立て直しのため頼りになる国は日本しかない、という北朝鮮の思惑があると考える。
現在の東アジアの国際環境を見ると、中国はロシアとの連携を強化しており、韓国も経済的な都合により、やむを得ず中国に傾いている。
日本として望ましい選択肢は北朝鮮カードを利用し、国内の政治基盤を整えて外交上の突破口を探るべき時期に直面している。安倍政権にとって拉致問題の解決は政権基盤を強化する土台となる。その一方で、北朝鮮は喉から手が出るほど経済立て直しの資金が必要だ。
将来、日朝国交正常化が実現すれば、日本にとっても北朝鮮のインフラ施設の整備、ODA借款に伴うゼネコンの進出などメリットがたくさんある。日朝 ともに利益となるウィンウィンの関係になり得る。北朝鮮の質の高い労働力と日本の技術力が手を結んだらシナジー効果が生まれる。
東アジア最後の未開発地「北朝鮮開発プロジェクト(仮称)」を他国の資本に奪われないように、日本の持ち分と役割分担に先鞭(せんべん)をつけるべき時期では ないか。
最近の日朝蜜月ムードがより進展すれば「日米同盟」と「米韓同盟」に亀裂を生む恐れもなくはない。いかなる国でも自国民の生命と安全を守ること が優先される。従って現在、日本が取っている外交路線は矛盾をはらんでいるようにも見える。
しかし、各国がそれぞれ国益を追求する国際社会で、日本が取った外交上の大胆なかじ取りは普遍妥当性のある選択肢だと考える。ちなみに冷戦時代に は、米中、日中は互いに敵対関係でありながらも国交正常化を成し遂げた。その背景にあったのが「政経分離」政策の選択であり、それこそ実利外交の 知恵だった。
今回、日本と北朝鮮の関係緩和が国交正常化までうまくゴールインできるかどうかは不透明だ。
国交正常化の前提条件は北朝鮮の核開発放棄だが、北朝鮮の核放棄は考えにくい。それは日朝国交交渉の限界でもある。ただ、北朝鮮が核放棄の代り に「核凍結」の選択肢を取るケースも考えられる。北朝鮮が核開発を凍結する場合、問題解決の突破口が開かれ国交正常化の可能性は高まると考える。
(拓殖大学客員研究員・元韓国国防省北韓分析官)