パリ同時テロ、自前の防諜機関創設が不可欠
吉原恒雄・元拓殖大教授(安全保障論)に聞く
――今回のテロでIS(「イスラム国」)が犯行声明を出し、オランド仏大統領もISの犯行と断定した。ISの狙いをどう見るか。
狙いは、欧米諸国のISへの軍事的反撃や資金・要員獲得への締め付けがようやく効果を表しはじめたことへの反撃といえる。ISにとって反撃は得意技であるテロしかない。
――オランド大統領はすぐに非常事態宣言を出した。
仏政府としては、観光客等への悪影響を承知の上で非常事態宣言を出したのは、事態を放置すれば国民の間にテロへの恐怖心が蔓延(まんえん)し、IS攻撃から手を引くよう求める世論が高まることを恐れたからではないか。頭を悩ましているイスラム諸国からの難民を制限する口実に利用できるとの思いもあろう。
――当然、仏当局としても警戒していたと思うが、未然に防げなかった。その要因は何か。
テロとの戦いにおける核心は情報分野だ。英米独などに比べると、フランスの情報戦能力は劣っている。英米独などはIS組織への潜入情報要員を潜り込ませているだろう。これらを通じてテロ行動の計画を知っても、自国に直接関係なければ、同盟、友好国といえども教えようとしない。それによって苦労して潜入させた要員の正体が察知される公算が大きいからだ。
――武器提供など国内の勢力との連携があったと思うが。
欧州諸国は宗主国として旧植民地からの移民を多く受け入れている。フランスもその例外ではない。これら移民、子孫らにとってみると、ISに同情的でなくとも、資金、武器提供面で協力を求められれば、拒絶しにくい。このため、当然、攻撃までの潜伏先提供を含めて、国内勢力の協力は十分に考えられる。
――シリア難民が流入する形でテロが起きる素地が高まると思われるが、人道問題とのバランスもあり、根本的な規制措置も困難だろう。どう対応すべきか。
今回の事態を難民の流入を制限する口実にする可能性がある。国民世論も、“人道主義者”も、自分らに危難が降りかかってくるとすれば、流入賛成論も弱まろう。
――ロシアも米欧諸国もIS壊滅では同じだが、シリアのアサド政権への対応をめぐって分かれている。しかし、今回のテロでロシアと歩調を合わせる動きも出てくるのではないか。
欧米諸国と対IS作戦で若干は歩調を合わせるだろうが、大きな期待はできないと思われる。
――日本にとっても対岸の火事ではない。何が最大の教訓か。
テロはオランド大統領の指摘通り、戦争の一種であり、かつ低烈度戦争であるという認識を持つことが重要だ。低烈度戦争の特徴は、情報の戦いが中心であり、そのための秘密情報収集機関、防諜(ぼうちょう)機関が不可欠だ。裏社会の情報収集は在外公館などで行うことは不可能であること。また、同盟・友好国といえども、苦闘して築いた潜入情報網を破壊することを承知で入手したテロ計画を教えてくれる国はないことを自覚すべきである。
(聞き手=黒木正博論説主幹)






