子供への向精神薬処方の法規制必要
発達障害者支援法施行10周年
市民の人権擁護の会日本支部最高顧問 南 孝次氏に聞く
自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎(こうはん)性発達障害、学習障害、注意欠陥・多動性障害などの発達障害者支援法が今月1日、施行から10周年を迎えた。発達障害の相談体制など、支援体制の整備などの前進が見られる一方、不適切な投薬などの問題も指摘されている。成立前から同支援法の「負」の面に警鐘を鳴らしてきた「市民の人権擁護の会(CCHR)日本支部」最高顧問の南孝次さんに、発達障害者への向精神薬投与の問題点などについて聞いた。(聞き手=森田清策)
自殺や暴力衝動の副作用/薬漬けで機能不全も
定義に科学的根拠欠く/悲劇の連鎖断ち切れ
人間関係に困難を覚え、行動や振る舞いに困難を抱える人や、学習に問題を抱える人などが、その人に合った援助や支援を与え、互いに支え合おうという意識が向上することはとてもいいことだと思います。
だが、そもそも発達障害の定義と精神科の治療がここでは大きな問題になっています。法律によって、発達障害が「脳機能の障害」と定義され、科学的な根拠もなく、勉強のできない「学習障害」や注意が散漫するという振る舞いを「注意欠陥多動性障害」としている点です。
この法案が与野党で合意され法制化されると聞き、慌てて国会や行政機関、関係機関に行き、日本や海外での問題について情報提供し、説明して回りました。議員や行政関係者らの法制化に関する回答や答弁も聞き、衝撃を受けました。法制化にあたり科学的根拠はないけど、専門の「多くの精神科医」がそのように言うので、「そういう定義にしました」と国民の知らないところで堂々と言っているのです。
通常の医療現場では考えられないことです。科学的手法によって、病気や障害の定義を突き止め、何度も検証された結果、根拠に基づき治療法を開発、施行していくのが通常医療です。意見や投票によって病名が決まり、推測によって治療が行われる精神医療とは根本的に違います。
精神や心に向き合うものではなく、あくまで子供を「脳機能」という尺度でしか取り扱えない精神医療を支援の根幹においているのが大きな問題です。専門家といわれる、わずかな精神科医の投票で決まった精神障害の診断・統計マニュアル(DSM)によって診断しているからです。そして、この法律が制定されたため、適切な情報が広く普及されず、異論を唱えることができない教育現場。自殺や暴力衝動などの副作用のある向精神薬の処方に関して長い間実態把握を避けてきた政府機関。レッテルを貼られ、薬漬けにされ、機能不全に陥る子供を見て、これが「障害」なんだと思い込み、「仕方がない」と思い込まされる教育関係者や保護者、関係者ら。新たなる悲劇の連鎖が、精神医療によって引き起こされてきたのが、この法律の問題点です。
――文部科学省の2012年調査では、公立小中学校の通常学級に通う児童・生徒の6・5%に発達障害の可能性があるとされています。これは実態を反映しているのでしょうか。
最初の調査は、精神科医らによって20世紀末から行われていました。ちょうど、日本がアジア初の世界精神医学会の国際大会の開催地に選ばれる前後のことです。本格的な欧米型の精神医療が日本で導入される時期でした。
欧米型とは、診断・統計マニュアルによって簡単に診断し、その病名や障害に効果があると専門家や製薬会社の営業マンが言う向精神薬を投与し、ビジネスを展開してきた「精神医療産業」のことです。その時期から、自殺や暴力などの副作用のある新型の抗うつ薬や中枢刺激薬が日本でも喧伝され、自殺件数も上昇してきたところでした。
つまり、日本的な隔離収容に、欧米的なビジネスモデルが導入された頃でした。診断・統計マニュアルによって振り分け用のチェックリストを作り、簡単に点数化し、学習や行動に困難の可能性がある児童・生徒のパーセンテージを割り出したものです。調査の手法に問題のあるものでしたが、報告では、あくまでも「困難」であり、「可能性」でした。しかし、その数字は独り歩きし、まるでクラスに一人か二人、精神障害者がいると認識されるようになりました。教育委員会などでは、精神医療の宣伝を受け、6・3%いる「発達障害者」の支援、というようにそれが断定されるようになってきました。この数字は、さらなる精神医療に対する支援や整備を要求するのにも役立てられます。
12年の調査では、秋田で1%台、埼玉では10%台と大幅に違う統計は、「先天的な脳機能障害」を原因とするにはあまりにも地域差がある統計になっています。これは、チェックリストは、結局のところ主観的なものであり、その統計が6・5%であるにすぎません。
――市民の人権擁護の会に寄せられた精神科治療による子供の被害事例を教えてください。
三歳児検診でチェックリストに引っ掛かり、精神科に発達障害と診断され、3歳で向精神薬が処方され、7歳にして多剤大量処方に苦しみ、成長が止まり、行動が鈍化していったなどがあります。
――発達障害の子供たちとその家族を支える上で、最も必要なことはどんなことでしょうか。
会としても、個人的にも、子供の命を救う活動を長い間続けてきました。90年代には、子供の被害のホットラインで被害事例を通して、多くの保護者の相談に当たってきました。共通するのは保護者が向精神薬の副作用を知らないということでした。そして、薬や診断の問題を知らないために、まるで「フィルター」をかけたように子供を見るようになっていくことです。そして、衰弱し、精神的に追い込まれ、死に至ってさえ、これは「病気」なのだと信じ込まされているのです。
長い精神医療の被害者にも共通のことが言えるかもしれません。子供の場合、それがよりはっきりするのですが、それでも精神医療によるフィルターがしっかりかけられるのです。そういう時は、より小さい頃、精神科に行く前と精神科に行った後の現状とを見比べさせます。ほとんど共通するのですが、精神科に行く前は、子供の「輝き」を認識するのです。そして、その当時の愛情も思い出すのです。それが、変わり果てた子供を「病気」のせいと精神科に言われ、諦め、愛情も失い、子供の輝き、本質的な部分を忘れ、疲れ果ててしまうのです。
だが、事情や情報を紹介すると、その変化が向精神薬の副作用に似ていると気づいてきます。そして、子供自身に向き合うようになります。愛情が回復し、子供の本来の姿をどうしたら取り戻せるか、副作用から脱却していけるかと考え、目からうろこが落ちる保護者も多くいました。
当会では、子供を守り、家族を支えるには、まず精神医療の真実、特にその診断や副作用の問題を広く普及していくことが大事と考えています。少なくとも、悲劇の連鎖を防止できるからです。そのためには、海外で起きているように子供の向精神薬の処方に関して規制する、法制化していく必要があります。
同時に、子供自身に向き合う人間関係の向上、教育支援や互いを認め合い理解し合うためのコミュニケーション能力の向上、食生活の改善や栄養補助、シックハウスやコンクリートなど環境化学物質の改善など、支え合うためのより安全で効果のある支援はさまざまです。
隠されてきた精神医療の真実を目の当たりにすると、子供たちの支援のために、より安全な解決策を模索していき、子供に優しい環境が創造されると思います。






