IS指導者死亡、テロ撲滅への一里塚にせよ
過激派組織「イスラム国」(IS)の最高指導者アブバクル・バグダディ容疑者が米軍の作戦で死亡した。突然のシリアからの米軍撤収表明で内外から批判にさらされていたトランプ米大統領にとって、テロ対策で実績をアピールする絶好の機会だ。しかし、ISの基盤は世界に拡散しており、テロ撲滅への戦いを緩めてはならない。
トランプ氏再選へ成果
トランプ大統領はホワイトハウスで演説し、バグダディ容疑者が米軍による急襲で死亡したことを明らかにした。外交、安全保障で成果の乏しいトランプ氏にとっては、1年後の大統領選での再選に向けて有権者にアピールできる大きな成果となることは間違いない。
ペンス副大統領、エスパー国防長官ら軍幹部らと共に、ホワイトハウスの「シチュエーションルーム(作戦司令室)」で、作戦のライブ映像を見守ったという。演説では「二度と無実の人々を傷つけることはできない」と成果を強調。「危険な任務だった」と作戦を実行した陸軍特殊部隊をねぎらった。
バグダディ容疑者の潜伏先はシリア北西部のトルコ国境近く。トルコに近いシリア反政府勢力や国際テロ組織アルカイダ、ロシアが拠点とする地域だ。米軍はシリア北部から撤収しており、トルコ、クルド人勢力から情報提供があったとみられている。トランプ氏自身も「ロシア、トルコ、イラク、クルド人勢力の支援に感謝する」と協力があったことを明らかにしている。
トランプ氏は中東の駐留米軍を撤収することを明らかにしており、それとともにテロ殲滅(せんめつ)への関与は弱まらざるを得ない。突然の撤収表明で、IS掃討で協力してきたクルド人勢力の信頼を失ったことも、米国の立場を弱くする要因となり得る。
2003年のイラク戦争開戦後、復興と治安維持に当たった米軍は、11年の撤収までに4000人余りの死者を出した。米国民が深い心の傷を負ったのは確かだろう。
皮肉なことに、イラク撤収を受けて「力の空白」が生まれ、経済的苦境、格差などに絶望した若い世代が、イスラム過激組織に集結した。テロ殲滅の難しさを物語っている。
ISのルーツともいうべき「イラクのイスラム国」ができたのはイラク戦争開戦の翌年、前身の「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」は、米軍のイラク撤収後だ。その後、バグダディ容疑者の下で過激化し、広大な地域に「カリフ国家」を「樹立」するに至った。
ISは、中東だけでなく、アフガニスタン、インド、パキスタンなど南アジア、インドネシアなど東南アジアにまですでに根を張っている。
米シンクタンク「戦争研究所」の研究者らはバグダディ容疑者の死を受けて「聖戦主義者のテロとの戦いでは大きな勝利だが、終結ははるか先だ」とする論文を発表。テロとの戦いは続くと主張した。
過激思想一掃で協力を
テロとの戦いには、人命、資金など大きなコストが伴う。武力による掃討とともに過激思想の一掃などでの国際協力が不可欠だ。