北漁船衝突、違法行為には断固たる対応を
石川県の能登半島沖で水産庁の漁業取締船「おおくに」(約1300㌧)が北朝鮮の大型漁船と衝突し、沈没した漁船の乗組員約60人が海に投げ出された後、日本側に救助され、近くにいた別の北朝鮮籍とみられる船に移乗し北朝鮮側に戻った。政府は、事故は北漁船による意図的な衝突が原因なのか、乗組員の身柄確保をしなかったのはなぜかなどの疑問に答えておらず、釈然としない。
退去警告後に急旋回
衝突があったのは能登半島の北西約340㌔の日本の排他的経済水域(EEZ)内にある「大和堆」と呼ばれる海域で、取締船が漁船に対し音声や電光掲示板による退去警告を発している最中に、漁船が急旋回したことが原因だという。状況から見て、漁船がEEZ内に進入し、違法操業をしようとしていた可能性が高い。
大和堆はイカやカニなどが豊富な漁場として知られ、北朝鮮漁船による違法操業が繰り返し行われてきた場所だ。そのため、水産庁と海上保安庁が警戒・監視活動を行っている。
安倍晋三首相は参院本会議での代表質問で、政府が中国・北京の外交ルートを通じ北朝鮮に抗議したと明らかにしたが、それだけでは不十分だ。まずは衝突の経緯を徹底検証し、責任の所在を明確にさせることが不可欠だろう。
退去警告にもかかわらず漁船が急旋回し、それが衝突につながった状況を記録した証拠動画があれば公開すべきだ。北朝鮮側に二度と同じような粗暴な行いをさせないことが肝心だ。
違法操業の有無が明確でない時点で乗組員の身柄を確保しなかったのは大きな問題だ。漁船側に責任があることが証明された場合、処罰する方法を事実上失うだけでなく、身柄確保を見送った日本側の対応にも批判の矛先が向かう。
近年、日本海沿いにはおびただしい数の北朝鮮木造船が漂流・漂着するようになった。乗組員が死亡することも少なくない。日本海で北朝鮮が違法操業を繰り返す背景には、食糧不足で不十分な燃料のまま出漁を決行するという人権問題もあると言われる。ただ、それが日本のEEZ内での違法操業を正当化する理由にはなるまい。
北漁船の違法操業では乗組員が日本側に銃口を向けてきたこともあった。乗組員になりすまして工作員が交じっている可能性を常に念頭に置くべきだ。
日本の公船が外国漁船に衝突された事例としては、2010年に沖縄県・尖閣諸島沖の日本領海内で中国漁船が海保の巡視船に船体をぶつけてきた事件がある。海保は中国人船長を逮捕したが、那覇地検が処分保留で釈放し、当時の民主党政権は厳しく批判された。今回の事故でも同じように与党が批判されることは十分考えられよう。
無法地帯化の恐れも
日本政府内には事故の処理を日朝対話の糸口にしたいという見方もあるようだ。しかし、仮に取り締まりの手を緩めることで北朝鮮に恩を売り、対話ムードを醸成しようと考えているとすれば賢明とは言えない。逆に北朝鮮が付け上がって日本海が無法地帯化する恐れがある。