あおり運転、法令の不備を早急に改善せよ


 高速道路は、自動車が一方に高速走行するだけの一種の閉ざされた空間だ。そこであおり運転で無理やり車を停車させる行為が、死をも招きかねない重大事故につながる危険性を持つことは言うまでもあるまい。

 だが、取り締まりの徹底だけでは、この種の悪質運転の根絶を図ることは難しい。あおり運転自体に対処できる法令の整備が早急に求められるのである。

 常磐道で男性を殴る

 茨城県内の常磐自動車道で、数㌔にわたって急減速や車線変更、幅寄せなどで後続車の進路をふさぐあおり運転を執拗(しつよう)に行い、強制的に停止させた車の男性運転者を殴ってけがをさせたとして、茨城県警は指名手配した宮崎文夫容疑者を傷害容疑で逮捕した。静岡など他県でもあおり運転を繰り返していたことを示す映像も出ていて、広範囲で捜査が進む可能性がある。

 この事件では、容疑者の極めて悪質な行為の一部始終が被害者の車のドライブレコーダーに記録されていた。テレビで繰り返し放映されたことから、似たような恐怖の体験を思い出した人も少なくないようだ。恐怖の濃淡はあろうが、ドライバーの7割があおり運転を受けた経験を持つという調査結果もある。

 また警察庁が昨年行ったあおり運転の摘発で、車間距離保持義務違反が1万3000件に上った。前年比で1・8倍となったが、それだけ問題の裾野が広がっていることを示している。摘発だけでなく、法令整備を中心にあおり運転抑止に向けたあらゆる対策が急務なのである。

 平成29年6月に神奈川県の東名高速道路で、あおり運転の車の男に追い越し車線に停車させられたワゴン車の夫婦が、後続のトラックに追突され、死亡した事故では、横浜地裁が男に危険運転致死傷罪を適用して懲役18年の判決を下した。判決は適用に無理があることを踏まえつつも、あまりにも悪質なケースとして同罪と認めた。

 車間距離保持義務違反では罰則は懲役3月以下、あるいは罰金5万円以下にすぎない。また警察庁は、あおり運転で死傷などの被害がない場合でも、暴行罪の適用や「危険性帯有」の行政処分などによる取り締まり強化を行っている。それでも暴行罪は懲役2年以下、危険性帯有は180日を最長とする運転免許停止となるだけである。

 あらゆる法令を適用して積極的な摘発に取り組む警察の努力は評価したい。一方、行為の悪質さに対し、あまりに釣り合いが取れていない法令の不備を指摘しなければならない。

 当面は免停時や免許更新時の講習で運転マナー教育に一層の力を入れ、飲酒運転やあおり運転の危険性はもとより、それが招く重大な結果についても周知を図りたい。生活に役立つ大切な車も、運転者の心得違いで走る凶器になりかねない。運転者は命を預かっているという自覚を大切にし、常に穏やかな心持ちでハンドルを握るよう促すことが欠かせないのである。

 映像機器で防止したい

 今回、被害車両のドライブレコーダーの映像が事件解明に威力を発揮したことも印象深い。こうした機器も、あおり運転防止に一役買うことを願いたい。