米朝首脳会談、友好演出で非核化は進むのか


 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が、南北軍事境界線にある板門店で会談した。米朝首脳会談は、昨年6月のシンガポール、今年2月のベトナム・ハノイに続き、3回目となる。両首脳は良好な関係をアピールしたが、単なる友好の演出では北朝鮮の非核化を実現することはできない。

現職米大統領の訪朝は初

 会談に先立ち、トランプ氏は現職米大統領としては史上初めて、境界線を越えて北朝鮮に足を踏み入れた。この後、両首脳は韓国側に移動し、韓国の文在寅大統領も交えて立ち話をした。韓国と北朝鮮、米国の3首脳が一堂に会するのも南北分断後初めてだ。

 トランプ氏は「この場にいるのは大変光栄だ」と述べ、越境を誇りに思うと語った。しかし、会談の成果は乏しいと言わざるを得ない。

 大阪市で開かれた20カ国・地域首脳会議(G20サミット)の閉幕後、トランプ氏は韓国訪問中に正恩氏と「会うかもしれない」と話していた。会談後には、米朝が2、3週間以内に実務協議を行うことで合意したと明らかにした。今回の「電撃会談」を停滞していた非核化交渉の進展につなげてほしいが、現状はそう甘くはない。

 日本や米国をはじめとする国際社会は、核開発を理由に北朝鮮に経済制裁を科している。だが北朝鮮は、シンガポールの米朝会談で非核化に取り組むことを約束したものの、本気で実現しようとする姿勢は見られず、見せ掛けの非核化措置で制裁緩和を引き出そうとしている。

 こうした中、トランプ氏が正恩氏との会談を重視するのは、来年の大統領選に向け、北朝鮮との対話継続を外交実績としてアピールするためだろう。正恩氏をホワイトハウスに招請したのも、こうした思惑によるものだと言える。

 もっとも、選挙で勝つために有権者の歓心を買い、自身の在任中に大きな実績を残したいという民主主義国家のリーダーの心理を、北朝鮮はよく理解している。トランプ氏は足元を見られてはなるまい。

 北朝鮮との交渉がずるずると長引けば、非核化がさらに遠のくことにもなりかねない。北朝鮮が5月、国連安全保障理事会決議違反の短距離弾道ミサイル発射を行ったことも忘れるべきではない。

 一方、文氏は今回、再び米朝の仲介役として存在感を示した形だ。だが北朝鮮の非核化を実現するには、日米韓が連携して北朝鮮に対峙(たいじ)する必要がある。それにもかかわらず、文氏は北朝鮮に融和的な半面、慰安婦や徴用工などの問題で日本との関係を悪化させている。このためG20サミットの際にも、安倍晋三首相との日韓首脳会談は見送られた。

文氏は対日関係改善を

 文氏は今回の米朝首脳会談について「大統領の大胆な提案により、歴史的な対面が実現した。大統領の果敢で独創的なアプローチに敬意を表す」と述べたが、会談のための会談では意味がない。本当に北朝鮮の非核化を実現しようと考えるのであれば、まずは対日関係の改善に努めるべきだ。