裁判員裁判10年、辞退率の低下へ改革は急務


 刑事裁判に一般国民が参加する裁判員制度がきょう、2009年開始から10年を迎えた。

 この制度は今世紀初頭から始まった司法制度改革の目玉の一つだが、裁判員の辞退率の高さや負担の重さなど課題が少なくない。制度の意義を再確認し、改革を進める必要がある。

 約9万人が裁判員に

 裁判員裁判は開始から今年2月までに約9万人が裁判員を務めた。国民が参加することで、司法を身近に感じてもらうという目的は、一定の成果を見たということができる。

 その一方で、裁判員を辞退した人の割合(辞退率)は09年の53・1%から、その後増加傾向が続き、18年は過去最高の67・0%に達した。逆に候補者が選任手続きのため裁判所に出向く出席率は09年の83・9%から減少傾向を見せ、近年は3割超が欠席している。裁判員制度に対する国民の関心の低さを如実に示している。

 その理由の一つとして、裁判員の心理的負担や審理の長期化に対する嫌気が考えられる。裁判員裁判の対象となるのは、殺人、強盗致傷、強制性交等致死傷など、法定刑が死刑や無期懲役を含む一定の重大事件だ。一般国民が法廷で詳細な事件内容を聞いたり、証拠写真を見せられたりする心理的負担は決して小さくない。

 裁判所は、これに対し遺体や殺害現場の写真などを証拠採用しなかったり、写真の加工を命じたりしている。また被告人などの調書を重視してきた裁判から公判を重視する裁判への移行も進めているが、裁判員制度への関心を高めるのに果たしてどれほど有効か。

 最高裁の大谷直人長官は裁判員制度10年を迎えるに当たって「ゴールではなく通過点。裁判員の声に耳を傾け、新しい時代の裁判像を探究していく姿勢が大切だ」と述べた。その言や良しだが、安定的な運用のための試行錯誤の段階から抜け出し、制度見直しも視野に入れた改革の議論を進めることが必要だ。

 裁判員候補者は70歳以上であることや重い病気、親族の介護、事業上の重要用務など正当な理由があれば辞退が認められている。辞退増加の要因には、高齢化の進展などの社会情勢の変化も考えられる。

 しかし、裁判員裁判への参加の重要性が社会に周知されているのであれば、参加期間に裁判員に対する社会的なバックアップがあってしかるべきだ。それが十分に機能していないのは、社会全体の裁判員制度への関心の低さを表している。「国民の義務だ」の一辺倒で制度についての丁寧な説明を怠るのであれば、法曹界のお役所体質むき出しと言わなければならない。

 法曹界は一丸となれ

 裁判員制度が導入されたのは、今世紀初めに裁判官らの詐欺まがいの不祥事や不倫スキャンダルが頻発し、裁判官には世間並みの常識もないという批判が高まったことが大きい。司法の危機に際し、法曹界が「裁判にも市民感覚を反映させたい」と一丸となって推進した。

 裁判員制度のほか、低迷する法科大学院などの司法改革に、いま一度法曹界が一体となって取り組む熱意が必要だ。