米露改善合意、ウクライナ問題に禍根残すな
ポンペオ米国務長官がロシア南部のソチを訪れ、プーチン大統領とラブロフ外相と会談し、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合から悪化した米露関係を改善していくことで合意した。トランプ米大統領はロシア疑惑に区切りを付け、対露外交を軌道に乗せたい考えだが、力による現状変更を容認しない原則を堅守し、ウクライナ問題に対する国際社会の結束を維持していくべきだ。
ポンペオ長官がソチ訪問
ポンペオ氏のソチ訪問は、トランプ氏の強い意向を受けたもので、米露首脳会談の露払いを担うものだ。両首脳は3日に電話会談をしており、双方ともに対話開始を全面的に歓迎しているが、政治的演出が先走っている印象は拭えない。
特に、ポンペオ氏とプーチン氏との会談で「ウクライナは全くなかった」と、ウシャコフ露大統領補佐官は強調しており、その通りであれば遺憾なことだ。また、プーチン氏は2016年米大統領選挙へのロシアの介入を否定するとともに米国のモラー特別検察官のロシア疑惑捜査について「客観的な捜査を行った」と評価した。
トランプ氏に「ロシアとの共謀」などの疑惑が浮上したのは、選挙中からプーチン氏を評価しロシアと関係改善を図る意向を示したことも一つの要因だが、ロシア疑惑捜査報告書が開示されて罪は認定されなかった。これを節目に、対露外交を進めるに際してトランプ氏は、包括的な取引を行う考えを示しており、両国が国益を懸けて何を譲り何を獲得するかは予断を許さない。
プーチン氏は米国でのロシア疑惑が両国の対話を遅らせたという認識を示している。しかし、問題は疑惑ではなくクリミア併合などウクライナへの介入である。14年にクリミアを編入し、欧米が軍事介入すれば核兵器を使う覚悟だったとも公言し、その後も対米強硬策を訴えて新型核兵器、超音速滑空ミサイル、超大型大陸間弾道ミサイルの開発などを進めてきた。
また、ロシアはシリアでアサド政権を、ベネズエラでマドゥロ政権を支援しているのをはじめ、イラン、アフガニスタン、北朝鮮、対テロといった問題などで米国との国際政治上の対立点が世界各地に存在し、一朝一夕に解決するものではない。ソチでの米露会談ではこれらの立場の違いや懸案が確認され、また、新戦略兵器削減条約(新START)が21年に期限を迎えるのを前に延長交渉を始めることで合意している。
だが、既に交渉は新兵器開発で軍拡を進め、世界各地で人権侵害が著しい独裁政権を援助しているロシアのペースに巻き込まれている。米国にとって放置できない問題を量産し、交渉が冷戦終結後に起きた領土拡張であるクリミア併合問題に到達しないままに既成事実化されてしまう恐れがある。
取引材料にすべきでない
ロシアにとって、ウクライナのゼレンスキー次期大統領の親欧米路線には不安もあろう。だが、ウクライナ問題でロシアは主要8カ国(G8)から外され、制裁を受けた。ウクライナを取引にかけるべきではない。