原発対テロ施設、安全対策強化が急がれる


 原子力規制委員会は原子力発電所のテロ対策施設について、期限までに完成しなければ運転中の原発の停止を命じる方針を決めた。

 完成の期限延長認めず

 今回の方針は、電力会社が期限までに完成できないとの見通しを示したことを受けてのものだ。関西、四国、九州の電力3社は、テロ対策施設である「特定重大事故等対処施設」(特重施設)について、工事が想定より大規模になっているとして、規制委に期限延長を求める姿勢を示していた。

 特重施設は、原発建屋への航空機衝突などのテロ攻撃で炉心損傷などの重大事故が起きた場合、放射性物質の外部への放出を抑制するために設置が義務付けられた。非常用の注水設備や電源、フィルター付きベント設備のほか、中央制御室が使用不能になった場合に備えた第2制御室などが含まれる。

 当初の設置期限は2018年7月だったが、再稼働に必要な審査に時間がかかることから、工事計画の認可から5年間猶予する制度に変更された。テロ対策強化のため、電力各社は完成を急ぐべきだ。

 ただ、電力3社は期限よりも完成が1~3年程度遅れるとしている。施設を建設するために敷地内の山を切り開いたり、工事用車両のトンネルを掘ったりするなどの工事が長引いているという。見通しが甘かったと言わざるを得ない。

 完成が遅れるとみられるのは5原発10基で、この中には再稼働した4原発7基が含まれる。このほか、九電玄海原発(佐賀県)が期限を越える見通しで、日本原子力発電の東海第2原発(茨城県)も23年10月までに特重施設を完成させなければならない。

 発電コストが比較的低い原発が停止すれば、電力会社の収益が悪化する恐れがある。再稼働で燃料の調達コストが下がったため、電気料金を値下げした会社もある。

 規制委は期限の延長は認めないとしている。確かに、原発の安全性向上のために特重施設は不可欠だ。だが、期限に間に合わなければ一律に停止するのは現実的とは言えないだろう。電力会社の個別事情を考慮した上で対応する必要があるのではないか。

 もちろん電力会社の方も、できる限り工期を短縮すべきだろう。電力会社は規制委に訴えれば期限を延長できると思っていたようだが、特重施設をめぐる規制委との意識の違いが浮き彫りとなった。

 昨年7月に改定された国のエネルギー基本計画は、原発について「長期的なエネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源」と位置付けた。国は30年度の電源構成で原発比率を20~22%に引き上げる目標を掲げている。

 安定的な活用が必要

 エネルギー安全保障のため、原発再稼働は必要だ。地球温暖化につながる二酸化炭素(CO2)排出を抑える上でも、原発の活用が有効だと言える。原発を安定的に活用するためにも、電力会社はテロ対策を含めた安全対策の強化を急がなければならない。