自衛官募集、自治体は協力を惜しむな
安倍晋三首相が「自衛隊の新規隊員募集に対し、自治体の6割以上が協力を拒否している」と主張し、憲法9条への自衛隊明記を訴えたことについて、野党や一部メディアから事実誤認との批判が出ている。
しかし、6割以上の自治体から協力を得られていないことは事実だ。少子化の影響などで自衛官の採用状況は厳しさを増している。自治体は協力を惜しむべきではない。
少子化が進んで採用難
首相は自民党大会の演説で、自治体が自衛隊の採用に協力していないとのエピソードを紹介。その上で「憲法にしっかり自衛隊を明記し、違憲論争に終止符を打とう」と訴えた。
防衛省によると、全国1741の市区町村のうち、2017年度に自衛官の採用活動に必要な住民基本台帳に基づく氏名などの個人情報を、紙や電子データで提供したのは632(36・3%)。
残りの1109(63・7%)のうち、587(33・7%)は18歳などの採用条件に該当する人の住基台帳の閲覧、書き写しを容認し、344(19・8%)も全ての住基台帳の閲覧などを認めている。野党や一部メディアは、このケースも含めて実際には9割の自治体が協力しているとして、首相の発言を批判している。
だが、自衛隊員が住基台帳の情報を手書きで写せば膨大な作業量となる。普通は、これを「協力」とは言わないだろう。自衛隊員が冷遇されているようにしか見えない。
少子化が進む中、17年度の海上自衛隊の自衛官候補生の採用数は、募集計画の6割だ。陸上自衛隊と航空自衛隊もそれぞれ約8割にとどまった。わが国の防衛に従事する自衛官の採用難は由々しき事態である。
首相発言を受け、自民党が党所属国会議員に対し、それぞれの選挙区内の自治体に、自衛官募集への協力状況について確認するよう文書で要請したのは当然だろう。非協力的な自治体は態度を改め、自衛隊が効率的な募集活動ができるようにする必要がある。
一方、首相は自衛隊について憲法9条1、2項を維持して明記するとしている。しかし2項では戦力不保持を定めているため、整合性が取れない。自衛隊の根拠規定を盛り込むのであれば、2項を削除することが望ましい。
ただ6割以上の自治体が自衛官募集に非協力的なのは、多くの憲法学者が自衛隊違憲論を唱えていることも背景にあろう。このような状況を何とか改善したいという首相の考えは理解できる。
野党や一部メディアが首相発言を批判するのは、自衛官募集の問題を憲法改正論議につなげたくないからではないか。昨年の臨時国会では野党の抵抗で憲法審査会がほとんど開かれなかったが、改憲について論じ合うことさえ拒否するのでは、国会議員の使命を放棄していると言われても仕方があるまい。
改憲論議を活発化させよ
首相は改憲について20年施行を目指している。今国会では、与野党で改憲論議を活発化させるべきだ。