ゴーン容疑者、経営者にあるまじき背信行為
日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者が、役員報酬を実際より約50億円少なく見せ掛けたとして、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。
このほか、日産の経費や投資資金を私的流用した疑いも浮上している。経営者にあるまじき背信行為だ。
私的な経費支出なども
虚偽記載をめぐっては、共犯として逮捕された側近で代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者が、複数の役員らに指示していたとされる。不正は内部通報で発覚し、東京地検特捜部は日産側と捜査協力の見返りに刑事処分を軽減する日本版「司法取引」に合意したという。
このほか日産の内部調査で、目的を偽った投資資金の支出や私的な経費支出などの不正が明らかになった。会社の私物化であり、社員や顧客に対する裏切りだと言わざるを得ない。
ゴーン容疑者は1999年にフランス自動車大手ルノーから日産に送り込まれ、2万人超の人員削減や系列を超えた部品調達など痛みを伴うコスト削減を実行。2兆円の負債を抱えて倒産寸前だった日産を復活させ、カリスマ経営者と呼ばれた。
しかし、このような徹底した合理化は生産現場を疲弊させたと指摘されている。日産では昨年秋以降、無資格検査や排ガスデータ改竄(かいざん)などの不正が相次いで発覚。設備・人員の不足が一因とされたが、ゴーン容疑者が自ら陳謝して説明に当たることはなかった。
日産・ルノー・三菱自動車の3社連合を率いてきたゴーン容疑者は昨年度、日産から約7億円、ルノーから約9億円、三菱自から約2億円の役員報酬を受け取っていた。一方、部下に厳しく目標達成を求めながら、日産の経営状況がさほど良くない時でも高額報酬を手にし続け、自らの責任は厳しく問わないと社内で受け止められていた。結局は強欲で無責任な人物だったのか。
ゴーン容疑者は社内での強大な権力を利用し、長年にわたって不正の発覚を免れていたとされる。トップへの権限集中がガバナンス(企業統治)の機能不全を招いたことは否めない。
上場企業の役員報酬をめぐっては、2010年3月期決算から年間1億円以上の報酬を受け取った役員の氏名と金額などを有価証券報告書に記載するよう義務付けられた。経営陣が業績や株主への配当などを度外視した高額報酬を受け取っていないか、株主や取引先などがチェックできるようにする狙いがあった。だが日産では、トップの不正を防ぐことができなかった。
ゴーン容疑者は昨年4月の会長就任後、1カ月のうち1週間ほどしか日本に滞在していなかったという。日産の西川広人社長は「現場から離れ、日ごろから報告を受ける人が限られる中で、間違った判断をしてしまうことが多く見られた」と語り、現行体制が限界にあったことを示唆した。
経営の透明性を高めよ
日産は社外人材を交えて経営の透明性を高めるなど、ガバナンス強化に向けた体制づくりを急ぐ必要がある。