米朝会談中止、北ペースに待った掛けた
来月12日にシンガポールで開催される予定だった史上初の米朝首脳会談が米国側の決断で急遽(きゅうきょ)中止になった。
トランプ米大統領が北朝鮮側の姿勢に反発したことによるもので、会談を強く望んでいたとみられる北朝鮮は当惑を隠せない様子だ。何よりも米国との会談を通じ、国際社会の制裁や体制不安から脱したかったはずの北朝鮮としては痛手であろう。
完全非核化避けたい北
トランプ氏は決断の理由として北朝鮮の相次ぐ約束違反を挙げた。北朝鮮はシンガポールで予定された両国高官による事前協議に姿を見せなかったほか、北朝鮮北東部・豊渓里の核実験場で行われた廃棄作業を検証する外部専門家を立ち入らせなかった。北朝鮮がペンス米副大統領を強く非難したことも理由だったという。
実際のところトランプ氏が北朝鮮の何に不信感を抱き、どの時点で中止を考え始めたのか、側近の助言がどう影響したのかなど詳細は明らかではない。
注目したいのは、会談中止がこれまで北朝鮮ペースで進んできた同国の非核化をめぐる一連の動きにひとまず待ったを掛けたという点だ。
北朝鮮は段階的な非核化にこだわり、それに応じた制裁緩和や体制保証を米国に約束させる場として今回の会談を想定していたとみられる。会談を前に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は2度も訪中して習近平国家主席と会談することで、中国という「後ろ盾」も確保していた。
一方、米国は北朝鮮に「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を求め、北朝鮮に篭絡(ろうらく)された歴代政権の前轍(ぜんてつ)は踏まないと繰り返し強調しながらも、トランプ氏自身は会談開催に前向きな姿勢だった。11月の中間選挙に向け外交上の成果を欲しているとされる。
会談が実現しても、非核化の具体的な中身をめぐり国際社会が十分納得できる内容には至らないとの見方が有力だった。仮にそうなった場合、完全非核化には応じたくない北朝鮮を利することになる。結果的に会談は中止され、北朝鮮の狙い通りに事は運ばなかった。
会談中止を受け、菅義偉官房長官は「重要なのは米朝首脳会談の開催自体ではなく、核・ミサイル・拉致問題が前進する機会になること」と述べた。安全保障上の脅威を政治的思惑のために利用することがあってはならないという意味で、全く同感である。
もちろん今回の会談中止は、北朝鮮が非核化に向けもっと誠意を示すよう米国が圧力を加えたものとの解釈もできる。北朝鮮に対する軍事攻撃能力を高め、圧力を掛け続ける姿勢を維持することは不可欠だ。
米朝首脳会談は圧力を背景に北朝鮮を非核化に向かわせる真摯(しんし)な話し合いの場にしなければならない。
文政権は融和策是正を
米朝の仲介役を自任してきた韓国の文在寅政権は会談中止に対し遺憾の意を表明した。
だが本当に遺憾なのは、北朝鮮ペースで非核化や平和体制構築の話が進み始めていたことであるはずだ。文政権には対北融和策の是正を促したい。