極超音速弾、米は新たな脅威への対処急げ
ミサイルの高速化が、技術の進歩とともに世界的に加速している。
米国やロシア、中国などはマッハ5以上のスピードで飛行する「極超音速」(ハイパーソニック)のミサイルの実用化を目指している。
現在のMDでは迎撃困難
極超音速兵器は核兵器に代わる次世代兵器とされ、音速の何倍もの速度で標的をピンポイント攻撃するものだ。核軍縮に伴い、抑止力維持のために攻撃力の高い通常兵器が求められたことで開発が進んだ。
飛行中に進路を変えられるように設計され、従来のミサイルのように予測可能な円弧状の軌道を描かない。まさに革命的な軍事技術であり、現在のミサイル防衛(MD)で迎撃するのは極めて困難とされている。
実戦配備されれば、世界の軍事バランスを大きく変える可能性がある。特に、米軍が世界に張り巡らせたMD網を無力化する「切り札」と見なす中露は近年、実戦能力の獲得を目指している。日本としても決して無関心ではいられない。
ロシア政府は3月、核搭載可能な極超音速ミサイル「キンジャール」を戦闘機から発射する実験に成功したと発表。発射の様子を映したという映像も公開された。
キンジャールは、速力がマッハ10、航続距離は2000キロとされる。ロシアのプーチン大統領は3月の年次教書演説で「現存するすべての防空や迎撃ミサイルシステムはもちろん、近い将来のシステムもすべて超えられる」と述べた。
米専門家の間では技術上の問題で実戦配備には至っていないとの指摘もあるが、警戒は怠れない。ロシアは昨年5月にも新型の極超音速巡航ミサイル「ジルコン」の試験発射を行った。ジルコンは2018年から20年に配備が開始されるという。
他方中国も、既存の先進ミサイル防衛を使って通常・核兵器を運搬できる極超音速ミサイルの開発を急いでいる。米国防総省によれば、中国は過去10年で米国の20倍に上る実験を実施した。これは、この開発の優先順位が中国にとって高いことを意味する。
グリフィン米国防次官(研究開発・技術担当)は、中国は既に数千キロ離れた地点を攻撃できる「かなり成熟した」極超音速ミサイルシステムを構築していると指摘。「現在の防衛システムでは、これらが向かって来ても検知できない」と警告した。こうしたミサイルの探知や追跡には、宇宙配備型のセンサーの導入などが求められる。
トランプ米政権は19会計年度(18年10月~19年9月)の国防予算案で、中露の極超音速兵器に対応するため、1億2000万ドルを計上。米国防総省は、米防衛・航空大手のロッキード・マーチンが今後、戦闘機から発射できる極超音速ミサイルを設計・開発すると発表した。
抑止力向上に注力を
中露の極超音速ミサイルは日本の安全も脅かしかねない。米国は自国や同盟国の抑止力向上を図る上でも、この兵器分野に注力しなければならない。
新たな脅威への対処を急ぐべきである。