北に拉致提起、日米結束で全面解決導け
トランプ米大統領は安倍晋三首相との首脳会談で5月から6月初めまでの間に開催される見通しの米朝首脳会談で日本人拉致問題を提起する考えを明らかにした。日本側の強い要請に応じたもので、近年目立った進展がない拉致被害者救出について日米が結束し北朝鮮に圧力をかけていくことは極めて重要だ。
関心寄せたトランプ氏
トランプ大統領は安倍首相に拉致提起を約束しながら「日本のために最善となるようにベストを尽くす」と述べた。米大統領が日本の最優先課題である拉致問題の解決を北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長に直接訴える意味は大きい。金委員長としてはこの問題に真剣に向き合わざるを得なくなる。
これまでトランプ大統領自身、国連演説で拉致被害者の一人、横田めぐみさんについて言及したほか、来日した際には拉致被害者家族と面会するなど第三国の立場でありながら解決に向け関心を寄せてきた。そのような経緯があったからこそ米朝会談で問題提起すると表明できたのだろう。
米朝会談を前に現在、北朝鮮で拘束中の米国人3人の解放問題で米国が北朝鮮に何らかの働き掛けをしているとの見方もあり、北朝鮮がこれに応じれば拉致問題解決にも追い風になる。
ただ、北朝鮮側が拉致解決に素直に応じるとは考えにくい。先日、河野太郎外相が韓国の康京和外相との会談で、今月27日の南北首脳会談で日本人拉致問題を取り上げるよう要請したが、早くも北朝鮮はそれを非難する記事を掲載している。
昨年まで核・ミサイルなどによる武力挑発一辺倒だった北朝鮮が対話路線に転じた背景には、「非核化」を米国や韓国との首脳会談の議題に上げることで国際社会の対北制裁を緩和させたい思惑があるとみられている。日本人拉致問題は本題から外れるという認識で、確たる返答を示さない可能性がある。
各種制裁が一定の成果を挙げつつある現段階で重要なのは圧力の手を緩めないことだ。北朝鮮が対話の場に出てきたから、「非核化」に言及したからというだけで圧力を緩めれば、制裁逃れや核・ミサイル開発の時間稼ぎに利用されかねない。検証可能で不可逆的な北朝鮮非核化はもちろんのこと、日本人拉致被害者の全員帰国が実現するまで圧力をかけ続けるべきだ。
言うまでもないが、米朝会談で拉致問題が提起されても、それが一過性の外交辞令に終われば意味がない。被害者家族会の飯塚繁雄代表は「日本人を帰すという確約を取ってもらいたい」と述べた。何十年も待ち続けた家族の思いは切実であり、全く同感だ。
米朝会談での提起を突破口にするだけでなく、あらゆるチャンネルを総動員し解決に向けた北朝鮮との交渉の糸口を探らなければならない。
4年前の日朝合意教訓に
4年前のストックホルム合意では北朝鮮が被害者の再調査などを日本に約束し、解決への機運が高まったが、双方の相手に対する不信などが壁となり事実上破綻した。これを教訓にし金委員長の決断を促す周到で綿密な戦略が求められよう。