高齢者免許返納、代替移動手段を充実させよ
高齢者ドライバーによる交通事故が後を絶たない。政府が勧める運転免許証の自主返納を行う高齢者は増えているが、特典や代替移動手段の充実など課題が残る。
死亡事故の比率上昇
2016年の75歳以上のドライバーによる死亡事故件数は、死亡事故全体が減少傾向にある中で459件に増加。全死亡事故に占める比率は07年の8・2%から13・5%に高まっている。1月9日には、群馬県で家族から運転をやめるように勧められていた80代の男が運転する乗用車が、登校中の女子高校生2人をはねる事故が起きている。
警察庁の推計によると、75歳以上の運転免許保有者は21年末には613万人に達する。その先には「団塊の世代」が控えている。高齢のドライバーの増加は続くと予想され、対策は待ったなしである。
昨年3月に施行された改正道路交通法では、高齢者ドライバーによる事故防止のために、75歳以上のドライバーに対する記憶力や判断力の検査強化が盛り込まれた。75歳以上は運転免許証更新時に受ける認知機能検査で「認知症の恐れがある」と判定されると、医師の診断を受けなければならず、認知症と診断されると、免許取り消しや停止の対象となる。また更新時以外でも、信号無視など特定の交通違反をした場合、臨時の認知機能検査を受けることも義務付けられた。
認知症ドライバーによる事故は重大事故になる可能性が高い。改正法施行から昨年9月末までの間に、3万人以上が「認知症の恐れ」と判定され、医師の診断で674人が免許を取り消されている。
高齢者ドライバーの運転免許証の自主返納を促すため、自主返納者に自治体からさまざまな特典を与える制度がある。警察庁によると、07年に約2万件だった自主返納件数は毎年増加を続け、16年に16万2300件、昨年は約42万件に増えている。
この動きをさらに加速していく必要がある。だが、特に交通機関の整備されていない地方では、自動車は「生活の足」として欠かせない。自主返納者をどのようにサポートするかが大きな課題だ。
内閣府が昨年11月に行った世論調査によると、70歳以上の免許保有者の96・7%が制度の存在を知っており、免許証返納のタイミングについては「身体能力の低下を感じたとき」が74・3%に上った。
もっとも、本人がどれだけ客観的に自覚できるかという問題がある。やはり、長年運転してきた自分の身体能力を過信してしまう傾向があるのではないだろうか。
「運転適性相談」の窓口が警察に設けられているが、この存在を知っている人は4割にとどまっているのも問題だ。
家族のサポートが第一
高齢者ドライバーによる事故を防止するには、まず家族が、運転に問題のない判断力、身体能力があるかを注意深く見続けること、問題があると感じた時には検査や自主返納を勧めることが重要だ。
移動手段も基本的には家族のサポートが第一だ。