笹子事故5年、教訓をインフラ改修に生かせ
山梨県大月市の中央自動車道笹子トンネルで天井板が崩落し9人が死亡した事故から5年が経過した。悲惨な事故の教訓を今後のインフラ改修に生かす必要がある。
近距離での点検義務付け
2012年12月に起きた事故では、コンクリート製の天井板約270枚(1枚1・2~1・4㌧)が約138㍍にわたってV字状に崩落。走行中の車3台が下敷きとなった。
管理者の中日本高速道路(名古屋市)によるトンネルの点検は00年、05年と事故の起きた年の9月に行われた。だが、天井板の吊(つ)り金具を固定する「アンカーボルト」をハンマーでたたいて異常を確認する「打音検査」は00年が最後だった。それ以後は手の届く範囲しかチェックしなかったという。
国土交通省による事故後の調査では、アンカーボルト周辺の接着剤劣化などが指摘された。きちんと検査を行っていれば事故を防げたのではないか。
犠牲者の遺族が中日本高速道路などに損害賠償を求めた訴訟では、横浜地裁が「事故は予見でき、入念な点検方法を採用すべき注意義務を怠った」として計約4億4300万円の支払いを命じた判決が確定した。先月末には中日本高速道路の当時の社長らが書類送検された。
笹子トンネルの事故を受け、14年7月から全ての橋やトンネルについて5年に1度、近距離で目視点検することが管理者に義務付けられた。天井板を吊り下げる構造のトンネルでは、天井板の撤去が進められるなど、再発防止のための取り組みも行われている。
高度経済成長期に整備されたインフラは老朽化している。点検の義務化によって、全国で今年3月末までに橋は約40万、トンネルは5000余りが点検されたが、この中で早期の補修が必要とされたものは、昨年3月末までに橋は約2万4000、トンネルは約1400に上る。しかし実際に補修工事に着手できたのは、橋は約13%、トンネルは28%にすぎない。
全国の橋の7割以上を管理する市町村では慢性的な財政難に陥っている。人口減少に伴う技術者不足も深刻だ。修繕しきれず、通行止めや通行規制を行っている橋も多い。
筑波大などの研究グループは、地方自治体や道路公社が管理する道路橋について、修繕費用が今後50年間で約27兆円に上ると推計している。一方、目視点検やさび付き防止などの対策を取れば15兆円に収まるというが、いずれにしても小規模自治体の負担は大きい。
とはいえ、インフラの安全確保は最優先課題だ。国交省は14年度、職員を自治体に派遣し、老朽化した橋やトンネルの診断・修繕を代行する制度を設けたが、財政面も含め自治体支援の在り方を再検討しなければならない。
ロボットの実用化急げ
政府が13年11月に策定した「インフラ長寿命化基本計画」では、メンテナンス産業の育成やインフラビジネスの競争力強化などが盛り込まれている。
人手不足を補うためにも、インフラ点検ロボットなどの実用化を急ぎたい。