無戸籍訴訟、家族守る民法批判は筋違いだ


 生まれた子との父子関係を否定する「嫡出否認」を夫だけに認めている民法の規定によって子が無戸籍となり、不利益を被った――。兵庫県の女性が同規定は男女平等を定めた憲法に違反するとし、損害賠償を求めて訴訟を起こした。

 これに対して神戸地裁は「(規定は)法律的に子供の身分の安定を保つもので、合理性がある」として合憲の判断を下し、訴えを退けた。妥当な判決だ。

夫のみ「嫡出否認」は合憲

 女性は約30年前、元夫の暴力を理由に別居し、離婚成立前に別の男性との間に長女を出産して男性を父とする出生届を出したが、「嫡出推定」で受理されなかった。元夫との接触を恐れ、嫡出否認の訴えを起こしてもらうのを断念し、長女とその子供2人が昨年まで無戸籍だったとしている。

 驚かされるのは、これほど長期にわたって無戸籍を放置していたことだ。夫から暴力を受けたことには同情できるが、離婚しないまま別の男性の子を産み無戸籍とした母親としての責任はどうなのか。男性は無戸籍の解消に努めなかったのか。子を守る意識が希薄だと言わざるを得ない。

 合憲判決に対して「明治時代の民法をそのまま踏襲しており時代遅れ」との批判があるが、筋違いだ。民法は親族の扶(たす)け合いを責務とし、婚姻や夫婦財産、親権などの権利と義務を明示し、家庭の安寧を図って子や家族を保護している。

 それで妻が婚姻中に妊娠した子を夫の子と推定する「嫡出推定」の規定を設け(772条)、婚姻の日から200日を経た出産は夫の子とし、離婚後300日以内に生まれた子の父は前夫とする。子の母親は出産を通じて明らかだが、父親については嫡出推定によって扶養義務のある父親を法的に明確にし、子の身分を保障する。こうした規定があるのは子を守るためだ。これによって救済された子が少なからず存在する。

 今回の訴訟で女性は、夫だけに認める嫡出否認を違憲と主張した。だが、嫡出推定が父親を明確にするものなので、嫡出否認を夫だけに認めるのは不合理とは言えない。

 かつて婚姻中の妻が不倫相手との子供を出産、その後に夫と別居して不倫相手と同居し、夫に対して父子関係の取り消しを求めた訴訟を起こしたが、最高裁は「科学的根拠で血縁関係が明らかになく、すでに別居していても、子の身分の法的安定を保つことが必要」として、訴えを退けている(2014年7月)。あくまでも「子の安定した身分保障」を優先しているのだ。

「手帳」で周知徹底を

 今回の判決は夫から暴力を受けた妻への支援制度の整備が必要だと指摘している。そうした支援策で無戸籍問題を解消すべきであって、家族の安定を目指す民法を変える必要はない。

 無戸籍問題が起こるのは、嫡出推定や嫡出否認の規定を知らない人がいるからだろう。民法の周知徹底が不可欠だ。4年前に政府は「女性手帳」の導入を検討したが、棚上げにされた。婚姻時に「家族手帳」を配布するなど啓蒙への工夫が求められる。家庭支援策も考慮したい。