欧米で相次ぐ凶行、過激思想の浸透を防止せよ


 米西部ラスベガスで乱射事件が発生し、少なくとも50人以上が死亡、200人以上がけがをした。事件現場では野外コンサートが開かれており、犯人はホテル32階から会場に向けて無差別に発砲したという。無辜(むこ)の人々に対する卑劣で残虐な凶行であり、強い怒りを禁じ得ない。

ISが音声メッセージ

 欧米ではこのところテロが相次いでいる。フランス南部マルセイユでは、刃物を持った男が居合わせた人々を次々に襲撃して17歳と20歳の女性2人が死亡。1人は胸と腹を刺され、もう1人は首を切られた。カナダ西部エドモントンでも、男が警官1人を刺し、大型車で歩道に突っ込むなどして通行人4人を負傷させた。

 マルセイユの事件では、過激派組織「イスラム国」(IS)が事実上の犯行声明を出した。カナダでも大型車からISの旗が見つかった。実際に犯人とISに関わりがあるかどうかは不明だが、テロの脅威が高まっていることは確かだ。

 ISなどが関連した欧米でのテロは、2015年が12件、16年は22件に上っている。このうち約7割が「一匹おおかみ」型で、イベント会場や飲食店など警備が手薄になりがちなソフトターゲットを襲うケースが増えているという。

 ISをめぐっては、最高指導者バグダディ容疑者のものとされる音声メッセージがインターネット上で公開された。メッセージは「米欧とロシアは、ムジャヒディン(イスラム聖戦士)の攻撃を恐れている。ジハード(聖戦)を続けよ」とIS信奉者らにテロ継続を呼び掛けるものだ。一連の犯行は、これを受けてのものとも考えられる。

 ISはイラクで最大拠点だったモスルを7月に失い、シリアでも「首都」と位置付けるラッカが米軍主導の有志連合やクルド人主体の民兵組織による攻勢を受けている。メッセージの公開には、ISが劣勢に追い込まれて支配領域を急速に縮小させる中、勢力を誇示する狙いがあろう。

 組織としてのISが弱体化しても、ISの過激思想は欧州やアジアなど世界各地に拡散している。東南アジアでは、政情不安に悩まされているフィリピン南部でISの活動が活発化しているほか、アフガニスタンに隣接する中央アジアでもISの浸透が懸念されている。国際社会はネット上で暴力をあおる情報を自動検出する技術の開発や資金源を断つための金融制裁などで、過激思想やテロリストの侵入を防ぐ必要がある。

 ドイツ連邦議会(下院)選挙では「反難民」「反イスラム」を掲げる新興右派政党「ドイツのための選択肢」(AfD)が国政進出を果たし、第3党へ躍進した。背景には、ISを信奉する難民申請者らがドイツでテロを起こしたことがある。テロ防止に全力を挙げるのは当然だが、移民排斥などは避けなければならない。

小池氏は対策明示を

 20年東京五輪・パラリンピックを控える日本にとっても、テロ防止は大きな課題だ。特に東京都知事を務める小池百合子希望の党代表には、衆院選で対策を明示してもらいたい。