対米依存のままでいいのか


 今年度の防衛白書では、極東アジアの国際社会について的確な情勢判断を行っている。冷戦下で、「中ソ両国の脅威」との表現さえ使用がはばかられたことを想起すれば格段の進歩である。だが、この新情勢にどう対応するかの記述が、これまで通り対米依存に終始しているきらいがある。

 中朝による安保環境悪化

 白書の指摘通り、日本を取り巻く安全保障環境の悪化は、可能性の問題ではなく「顕在化、先鋭化」している。北朝鮮の弾道ミサイルの開発が、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験に成功するなど新たな段階に達したことはその一端だ。

 もっとも、ICBMが対日戦に使用されることはない。しかし、それほど遠くない将来、開発努力をしている潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)ともども、米国の対日「核の傘」の信頼性を低下させることは間違いない。

 われわれが当面留意すべきは、既に200~300基保有している中距離弾道ミサイル「ノドン」への対応だ。これまで防衛当局は、液体燃料使用のため格納庫から引き出してから燃料を注入するので対応しやすいと説明してきた。だが、ノドンは開発当初から貯蔵可能な液体燃料なので、固体燃料に換装しなくても奇襲能力はある。

 政府・防衛当局は全国瞬時警報システム「Jアラート」で国民に発射の際に警報を出すと伝えている。だが、ノドンは発射後、10分余りで北海道の北端に到達する。西日本はむろん東京でさえ、着弾後に警報を出すことになる。

 それに戦闘行為の際は予告なく発射されるので、飽和攻撃でなくともイージス艦搭載ミサイル「SM3」や地対空誘導弾パトリオット(PAC3)での撃墜率はそれほど高くない。

 通常よりも高い角度で高い高度まで打ち上げるロフテッド軌道で発射された場合も迎撃が困難になる。国民に無用な恐怖心を与えることはよくないが、“政治的配慮”に基づく説明はもっと明確なものに改めるべきであろう。

 ICBM開発で国民の目が北朝鮮に向いている現在、その陰で中国は軍事力の近代化努力や支配領域拡大に余念がない。それは白書の指摘通り、「独自の主張に基づき、力を背景とした現状変更の試み」を実施し、「既成事実化を着実に進め」ている。沖縄県・尖閣諸島奪取や南シナ海の「内海化」への動きはその典型だ。中国では国産空母の進水式が17年4月に行われ、2隻目も建造している。

 ところが、この深刻化している北東アジアの事態にどう対応するのか。「日米同盟の強化」しか対応策がない。冷戦後の国際社会の特徴は、各国が自らの価値観に基づき国益、安全の確保を目指して行動する点にある。欧州主要諸国だけでなく米国も例外ではない。

 今後の政策にも触れよ

 官房長官が大臣ではなかった時代に出された指示で、各省庁の白書では今後とる政策に触れることを禁じられている。これでは医者が患者の病名診断だけで、治療を行わないに等しい。改めるべきである。