テロ等準備罪、情報戦への対応が主眼だ
「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法がようやく成立した。
難航した背景には、一部の野党、マスメディアによって流言飛語が飛び交ったことがある。それだけでなく、法改正の必要性についての政府説明の分かりにくさや自信のなさがあったことも否めない。
諸外国では「低烈度戦争」
冷戦終結後、全世界的にテロの回数は激増している。3年後に東京五輪・パラリンピック開催が予定されている日本にとって、テロ防止は喫緊の課題でもある。わが国ではテロが犯罪行為の一種と考えられがちだが、諸外国では「低烈度戦争」と捉えている。
だが、テロは戦闘烈度が最低の戦いなので、情報戦が中心となる。このためテロ防止策で重要なのは、警備警察の強化ではなく、いち早くテロリストの動きを捉えて芽のうちに摘むことである。
コンピューターの普及で、サイバー分野が情報戦の中心“戦場”となりつつある昨今である。これに対応するのが、今回の改正の主眼でもある。
日本は第2次世界大戦前から、主要国の中で唯一、本格的な秘密情報機関を保有しなかった国家である。それは現在でも変わらない。
主要国では対外情報収集機関、防諜(ぼうちょう)機関の他、サイバー戦場の誕生に対応して電波情報専門の国家安全保障局(米国)、政府通信本部(英国)などを保有している。
また、わが国は国際組織犯罪防止条約をいまだ批准していないため、国際テロ情報の入手が阻害されている。今回の法改正によって条約加盟が可能となる。航空機によるテロリスト移動が簡便になった現在、秘密情報機関がない日本にとって、こうした情報入手の道も開ける利益は大きい。
わが国が主要国と同じような電波情報収集機関を設立する際には、今回のような改正が必要だったのだ。それだけでなく、日本国内における諸外国のテロ組織への支援者や諸外国のテロリストに関する情報収集も、今回の法改正によって容易になる。これらの情報を諸外国に知らせることは、日本の義務ですらあるのだ。
ただ改正案をめぐる答弁で、政府当局は「一般市民は対象としない」と説明している。改正法がこの答弁通りに運用されればザル法になりかねない。諸外国のスパイと同じようにテロリストも、善良な市民を装って日本社会で暮らしているからだ。
「酒場での上役非難が対象とされ、言論弾圧につながる」といった類いの床屋政談以下の反対論が、一部野党の政治家やメディアによってまかり通っている。他の主要な議会制民主主義国家並みの立法措置で、何故「言論、思想弾圧の時代に逆戻り」するのか。
責任問われるメディア
政治家のみならずジャーナリストも「結果責任」を問われる。議会制民主主義国家のマスメディアは第四権力と言われる。とすれば、マスメディアも他の権力からの批判を甘受しなければならない。これは「言論弾圧」ではないのだ。