性犯罪厳罰化、「魂の殺人」の防止徹底を
政府は性犯罪の厳罰化を図る刑法改正案を閣議決定した。強姦罪や強制わいせつ罪について、被害者の告訴がないと起訴できない「親告罪」の規定を削除するのが柱だ。
告訴に伴う被害者の精神的な負担を減らし、「泣き寝入り」を防ぐ。速やかに改正案を成立させる必要がある。
「親告罪」の規定を削除
性犯罪は被害者の尊厳を踏みにじり、取り返しのつかない傷を与えるので「魂の殺人」と呼ばれている。加害者を厳しく処罰し、防止徹底を図ることは当然だ。
これまで性犯罪は親告罪であったため、告訴に伴う被害者の心理的負担が大きかった。親告罪の規定は、刑事裁判で事件が公になることで、被害者側が不利益を被ることがあるとされたため設けられた。
実際、被害者が告訴をあきらめるケースは少なくない。法務省によると、2013年に送検された強姦事件888件のうち、告訴しなかったり、告訴を取り消したりしたため、194件が不起訴となった。
しかし、これでは加害者が野放しにされかねない。被害者の告訴がなくても起訴できる「非親告罪化」によって、立件の判断は検察官に委ねられ、被害者の負担を減らすことができる。改正案は、改正法施行前の時効が成立していない事件についても、告訴なしに原則立件可能と定めている。告訴が不要となっても、被害者の意思を尊重し、不利益を生じさせない対策を徹底することが求められる。
強姦罪は「強制性交等罪」と改め、女性だけでなく、男性が被害者となった場合も罪に問われる。これまで男性の被害は軽く扱われがちだったが、性犯罪によって深い心の傷を負うのは男性も同じであり、妥当な改正だと言える。
強姦は法定刑の下限を懲役3年から5年、致死傷罪の場合も5年から6年に引き上げ、強盗や殺人と同等にする。懲役6月以上10年以下の強制わいせつ罪の一部もこれに含める。時効の撤廃など一層の見直しを進める必要がある。
家庭内の性的虐待も厳罰化する。親が監護者としての影響力により18歳未満の子と性行為をした場合について「監護者性交等罪」「監護者わいせつ罪」を創設。暴行や脅迫、被害者の告訴がなくても処罰対象とする。
親の子供に対する性暴力は極めて卑劣な犯罪であるが、子供が自分で声を上げることは非常に難しく、中には親をかばう子供もいる。だが被害の影響は深刻で、被害者が自傷行為や自殺未遂を繰り返すケースもある。たとえ家族とはいえ、到底許されないことであり、厳罰化は当然のことだ。
改正案の速やかな成立を
政府は今国会の成立を目指しているが、「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案の審議で、野党の強い反対が予想されるため、刑法改正案を成立させられるかどうか微妙な情勢だという。
しかし「魂の殺人」を防ぐための性犯罪厳罰化も重要な課題であり、速やかに成立させる必要がある。