ベトナム御訪問、両陛下が結ばれた日越心の絆
天皇、皇后両陛下は、ベトナム、タイ両国を訪問された。初めての御訪問となったベトナムでは、国家主席ら4人の指導者との御面会をはじめ、さまざまな人々と心を込めた交流に努められ、日越間の友好に新たな一ページを開かれた。
元日本兵家族と御面会
両陛下はベトナムのトップ4に当たる共産党書記長、国家主席、首相、国会議長と相次いで面会された。チャン・ダイ・クアン国家主席夫妻主催の晩餐(ばんさん)会で、天皇陛下は「このたびの私どもの訪問が、両国国民の相互理解と友好の絆をさらに強める一助となることを心から願っています」と述べられた。
一方、クアン国家主席は「現在のベトナムにとって日本は真の親友」と表現。「両陛下の御訪問が、両国の友好協力関係に新たな春を与えるものと確信します」と語った。
首都ハノイの空港に到着された両陛下を、タラップの下でティン国家副主席が出迎えたが、これは国賓でも異例の対応という。ベトナム政府の篤(あつ)い歓迎の姿勢がうかがわれた。現地メディアも両陛下の御訪問を「新たな次元迎えたベトナムと日本の協力関係」などの見出しで好意的に伝えた。人々の関心も高く、古都フエでは空港からホテルまでの間、多くの人が日越両国の旗を振り歓迎した。
ベトナム御訪問のハイライトとなったのは、先の大戦終結後にベトナムに残り、同国のフランスからの独立戦争に加わった元日本兵の家族らとの御面会であった。両陛下と面会したのは独立戦争後、日本に引き揚げる元日本兵と同行できず、現地に残されたベトナム人妻や子供の日系2世ら15人である。
天皇陛下は家族らの言葉に耳を傾けられ、予定時間を20分ほども延長し、一人ひとりの手を握っていたわりの言葉を掛けられた。面会した元日本兵家族は「本当に感激した」「生まれ変わったように感じる」と口々に語り、両陛下のいたわりの言葉に感極まって涙を流す人も見られたという。今回の御訪問で、最も感動的な場面だった。
先の大戦終了後、現地に残留して宗主国との戦いに参画し、同じアジア人としてその国の独立を助けた元日本兵がいた。インドネシアのケースがよく知られているが、ベトナムでも800人近くが残留した。これまであまり光を当てられなかった重要な歴史の一側面を、日越両国民が知る機会ともなった。
元日本兵家族はさまざまな苦難を味わったが、両陛下の御発意で持たれた面会は、忘れ難い慰めと癒やしの一時となった。
日本とベトナムは冷戦終結後、友好関係を築き、日本はベトナムの最大の援助国となっている。今回の両陛下の御訪問は、そのような関係の深まりの土台の上に、より強い心の絆を結ぶ、実に意義深いものであった。
タイ前国王の御弔問も
両陛下はベトナムの後、タイ・バンコクも御訪問。昨年10月に亡くなったプミポン前国王を弔問され、ワチラロンコン新国王にお悔やみを伝えられた。前国王とは半世紀以上、家族ぐるみで交流を続けてこられた。王室同士の心の交流を大切にされる重要な御訪問であった。