北方領土、容認できぬ露の無人島命名
ロシア政府は北方領土周辺の三つの無人島に旧ソ連軍人やロシア政治家にちなんだ名前を付けた。北方領土の不法占拠を正当化するものであり、決して容認できない。
不法占拠正当化の狙い
歯舞群島の秋勇留島近くの無人島には、ミズーリ号上での日本の降伏文書調印式に参加し、第2次世界大戦後の占領機関「対日理事会」のソ連代表を務めたデレビヤンコ中将の名前が付けられた。色丹島近くの島にはグネチコ中将の名前が命名された。グネチコ中将は第2次大戦で極東における対日戦線を指揮。特に占守島の戦いでの功績が語り継がれた。
色丹島に近いもう一つの島には、サハリン州のファルフトジノフ元知事(2003年に事故死)の名前が付けられた。ファルフトジノフ氏はエリツィン時代の知事在職中、日本との経済交流に積極的だったが、北方領土問題では返還に反対する対日強硬派として知られた。
この措置に対し、菅義偉官房長官が「わが国の立場と相いれず、極めて遺憾だ」と抗議したのは当然だ。だが、駐日ロシア大使を呼び付けることもなく、文書あるいは口頭による抗議以上の具体的な対抗措置について明らかにしなかったことは物足りない。
日本からの抗議に、ペスコフ大統領報道官は「これらの島々がロシアの領土である以上、命名はロシアの主権的権利である」と述べた。しかし北方領土は日本固有の領土であり、ロシアが現在、不法占拠していることは紛れもない事実だ。無人島命名は到底容認できない。
安倍晋三首相は、ロシアとの北方領土問題を含む平和条約交渉について「私の手で、プーチン大統領との間で締結しようと考えている」と強調する。だが、プーチン氏は「第2次大戦の結果」として北方領土の不法占拠を正当化している。交渉には「首脳間の個人的な信頼関係」だけでは進展しない困難さが伴う。
昨年末の日露首脳会談に先立ち、ロシア軍は国後島と択捉島に最新鋭の地対艦ミサイルを配備したことを明らかにし、北方領土を極東の軍事的要衝として位置付ける姿勢を示した。プーチン氏はアジア太平洋地域への関与強化を表明しており、太平洋への出入り口となる北方領土周辺の重要度は増している。
岸田文雄外相はドイツ・ボンでロシアのラブロフ外相と会談し、日露首脳が協議開始で合意した北方四島での共同経済活動について、来月に東京で両国の関係省庁による公式協議を開催することで一致した。共同経済活動には早期の領土返還に向けた環境を整備する狙いがあるが、双方の法的立場を害さない制度づくりなど課題は多い。
首相は足元を見られるな
首脳会談を踏まえ、日露は8項目の経済・民生協力プランに沿って、官民が3000億円規模の事業を進めていくことで合意した。しかし、経済協力のみが進んで領土交渉が停滞する事態は避けなければならない。
北方領土返還は何としても実現しなければならないが、焦りは禁物だ。ロシアに足元を見られないよう、安倍首相には腰を据えた取り組みを求めたい。