文科省天下り、法令軽視の体質改善せよ
文部科学省が組織的に幹部の天下りをあっせんしていた。教育行政の公正性が疑われかねない事態だ。
組織ぐるみであっせん
天下りに関しては、国家公務員法が2007年に改正され、各省庁の職員による他の職員やOBの再就職のあっせんや、本人が在職中に利害関係のある企業や団体などに求職活動をすることが禁じられた。旧防衛施設庁OBらが関与した官製談合事件などで、天下りが「官民の癒着」と批判を受けたためだ。
今回の問題で政府の再就職等監視委員会は、元高等教育局長の吉田大輔早稲田大教授が在職中に人事課経由で同大に経歴を伝えて求職行動した行為など10件について、国家公務員法違反に当たるとした。
前川喜平事務次官(当時)は自らもOBの再就職に関与した責任を取って辞任。吉田氏も早大教授を辞職した。文科省は前川氏ら7人を減給や停職処分とした。
監視委や文科省によると、人事課が退職予定者の個人情報や法人からの求人情報を同課OBに提供し、適任者を「マッチング」してもらう手法が09年ごろから横行していた。しかも吉田氏のケースをめぐっては、監視委の調査に対し、人事課職員が違反を隠すため虚偽の報告をしていた。
教育を担う官庁で違法行為が常態化していた。それだけでなく、この事実を隠蔽(いんぺい)しようとしたことに唖然(あぜん)とさせられる。
他にも違反が疑われる行為が28件あったという。法令軽視の体質は極めて根深いと言わざるを得ない。この問題を受け、松野博一文科相は大臣直轄の調査班を設置したが、徹底解明と再発防止に全力を挙げなければならない。
安倍晋三首相が山本幸三国家公務員制度担当相に、他の省庁でも同様の事案がないか徹底的に調査するよう指示したのは当然だと言える。今回のような違法行為が放置されれば、行政がゆがめられかねないという危機感を持つ必要がある。
こうした問題が生じた背景には、大学の経営環境の厳しさがある。私立大にとっては文科省が配分する助成金が重みを増しており、文科省との強い結び付きを切望している。このため、私大側がOBを受け入れる構図が天下りの温床となっているとの指摘もある。
特に、大学行政を所管する高等教育局出身者が私大に再就職するケースは多い。早大のホームページは吉田氏について、専門分野として高等教育政策などを挙げ、「文部科学省等の各種事業関係に関する連絡調整等への関与(大学への助言)を行う」などと記していた。
もちろん、すべての再就職が違法とは言えないだろう。しかし、特に管理職経験のある元職員は疑念を招かないような慎重さが求められる。
職員の意識改革が必要だ
安倍首相は今国会の施政方針演説で「子供たち一人ひとりの個性を大切にする教育再生を進める」と述べた。
そのためにも、まずは教育をつかさどる文科省職員が法令順守を徹底するよう意識改革を行う必要がある。