ホーム転落死/周囲の手助けで再発防止を


 埼玉県蕨市のJR京浜東北線蕨駅で、盲導犬を連れた男性がホームから転落し、電車にはねられて死亡した。駅には点字ブロックはあるが、ホームドアは設置されていなかった。

 痛ましい事故だ。再発を防ぐには、ホームドアの早期の設置拡大とともに、視覚障害者に対する駅員や周囲の利用客の手助けが欠かせない。

 まだ少ないホームドア

 男性はマッサージ師で、店に通勤するため、ほぼ毎日電車を利用していたという。電車搭載のカメラには、盲導犬を連れて立っていた男性がホームから落ちる様子が映っていた。

 転落時に盲導犬をつなぐハーネス(胴輪)は男性の手から離れていた。ホームの幅は約10㍍あるが、男性が転落した場所には階段の側壁があり、ホームの端までの幅が約2㍍と狭くなっていた。

 転落防止にはホームドアの設置が決め手となる。だが1日の利用者が10万人超の全国260駅のうち、ホームドアが設置されていないのは約7割の178駅に上る。

 設置には1駅当たり数億~十数億円が掛かる。工事は電車の走らない夜間に制限され、スペースが狭く工事が難しい駅もある。しかし、危険の放置は許されない。

 国土交通省は昨年12月、178駅のうち約60駅で2020年度までにホームドアを整備するなどの安全対策をまとめた。ただコスト低減や技術向上などによって、可能な限りホームドアを備えた駅を増やすべきだ。設置時期の前倒しも今後、考える必要がある。利用者が10万人未満でも、視覚障害者の利用が多ければ設置を検討しなければならないだろう。

 また国交省は、駅員が視覚障害者を見掛けた場合、構内を誘導してサポートするよう鉄道会社に要請していた。断られた場合も、乗車まで見届けることを求めていた。

 それにもかかわらず、今回の事故が起きたことを重く受け止めなければならない。蕨駅では事故当時、4人の駅員が勤務していたが、男性に気付かず、誘導できなかったとみられる。ホームには駅員が配置されていなかった。国交省やJR東日本は徹底検証し、再発防止に全力を挙げるべきだ。

 これまでもホームから視覚障害者が転落して死亡する事故は繰り返されてきた。昨年8月には、東京メトロ銀座線青山一丁目駅で盲導犬を連れて歩いていた男性が、ホームに落ち、電車にひかれて死亡する事故が発生した。10月にも、近鉄大阪線河内国分駅で視覚障害者の転落死亡事故が起きている。

 他の視覚障害者にとっても人ごととは思えないだろう。国交省によると、15年度に全国の駅で生じた視覚障害者の転落は94件で、前年度比14件増となっている。

 ソフト対策が重要だ

 ホームドアの設置が予定されている駅でも、それまでは駅員の誘導や見守りなどのソフト対策が重要となる。それとともに、視覚障害者の安全確保には周囲の利用客の手助けも求められよう。一人ひとりが配慮して悲惨な事故を防ぎたい。