釜山少女像設置、日韓合意の誠実な履行を


 韓国南東部・釜山市の日本総領事館前に市民団体がいわゆる従軍慰安婦を象徴する少女像を設置したことをめぐり、日本政府は長嶺安政駐韓大使の一時帰国など対抗措置を発表した。

 世論の反発を理由に日韓「慰安婦」合意の履行に消極的だった韓国政府の姿勢はうなずけない。改善の兆しが見えていた日韓関係が再び冷え込む恐れが出てきた。

「不可逆的解決」に反する

 日本政府が対抗措置を発表したのは、少女像設置が合意にある「慰安婦」問題の「最終的、不可逆的解決」に明らかに反するためだ。合意は北東アジア情勢の行方に大きな影響を与え、国際社会に向け発した約束の性格も帯びていた。その意味で、今回の少女像設置は合意を支持した米国などの期待を裏切るものでもある。

 韓国は合意に基づいて日本側から拠出された10億円を「和解・癒やし財団」を通じ被害者に「癒やし金」として支給している。しかし、在ソウル日本大使館前の少女像撤去に関しては進展に向けた具体的な措置を講じていない。

 昨年の国政介入事件で今の韓国世論は「反朴槿恵大統領」一色だ。朴政権に反対していた左派勢力がこれに便乗し、政策の撤回まで主張している。「慰安婦」合意に反対する市民団体や野党も、こうした流れを利用している側面がある。

 朴大統領が国会の弾劾可決で職務停止に追い込まれ、強いリーダーシップが不在であるという状況も理解できる。だが、これらを理由に少女像撤去を先送りするムードが韓国政府内にあったとすれば極めて遺憾だ。国家間の合意を国内の反対世論で履行できないと弁明することは国際常識では考えられない。

 特に少女像撤去はおろか在韓日本公館前に2体目が設置されるという事態は日本に深い失望感を抱かせている。さらにそうした認識が韓国側に薄いことは、今後再び日韓関係を改善させようとする動きにまで影を落としかねない。

 反日世論を扇動してきた韓国メディアの論調も気になる。主要紙が社説で「国益に沿って未来志向的に解決すべきだ」と説きながらも合意履行の重要性に触れなかったり、稲田朋美防衛相の靖国神社参拝を批判し、視聴者に事の本質をぼかして伝えたりする報道も散見される。相変わらずのミスリードだ。

 言うまでもなく日韓は民主主義を中心にする価値観を共有する重要な隣国同士だ。一時、日本に「嫌韓」感情、韓国に「反日」感情が広がったが、関係悪化を終息させる決定的契機となったのが「慰安婦」合意だったことを再度思い起こし、合意を履行すべきだろう。

関係悪化を喜ぶ中朝

 日韓が再び関係を悪化させるのを密(ひそ)かに喜んでいるであろう北朝鮮や中国の存在も忘れてはなるまい。

 韓国は昨年、国政混乱の最中、また日本との防衛協力にあれほど反発していた世論があっても、北朝鮮の脅威に対抗するため日本と軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結した。粛々と日韓連携を深めることが求められている。