慰安婦合意1年、少女像問題含め着実な履行を


 日韓両政府がいわゆる従軍慰安婦問題をめぐり合意してからきょうで1年になる。この間、日本は被害者の名誉・尊厳の回復や心の傷の癒やしのため10億円を拠出したが、韓国は在ソウル日本大使館前に設置された、慰安婦を象徴する少女像を撤去できずにいる。合意履行へ一層の努力が求められる。

国政介入事件で一変

 合意に基づき被害者とその遺族を支援するため設立された韓国の「和解・癒やし財団」は、日本から拠出された10億円を基に生存者や遺族に癒やし金を支給する事業を進めてきた。財団発表によれば、これまでに合意時の生存者46人のうち34人が受け取る意思を表明し、意思表示がなかったり拒否したりしている人はわずかとなった。

 毎週、日本大使館前で慰安婦問題をめぐり反日デモを行っている市民団体「韓国挺身隊問題対策協議会」は日韓合意の無効を主張し、癒やし金の受け取りを拒否するよう被害者たちに働き掛けてきた。しかし、被害者の多くは財団側の説明を通じ合意の趣旨を理解し、癒やし金を受け取ることにしたようだ。

 だが、少女像撤去に向けた動きは一向に進んでいない。韓国政府も公館の安寧・威厳の維持の観点から撤去に異論はなかった。ただ、少女像は慰安婦問題の「聖地」のような存在になりつつあり、韓国国内の反日感情を考えれば多少時間がかかるのはやむを得まい。

 財団では追悼施設の建設を協議しており、完成すればその施設への移転も検討されることになろう。

 問題は朴槿恵大統領の友人、崔順実被告による国政介入事件で状況が一変し、慰安婦合意の履行に向けた朴政権のリーダーシップを期待しづらくなっている点にある。

 国会で弾劾訴追案が可決され、朴大統領は職務停止に追い込まれた。黄教安首相が権限を代行したとはいえ、現状維持型の国政運営が予想される。ただでさえ政治的リスクの高い慰安婦問題に関し、合意破棄を求める野党の反対を押し切るだけの推進力を持てるか疑問だ。

 財団の合意履行への認識も懸念される。癒やし金の支給が終われば財団としての責任を果たしたと考えてはいないか。そうなれば少女像撤去は次期政権に委ねられる可能性もある。仮に現在の野党陣営が次期政権を取った場合、撤去の見通しは立たなくなる。

 慰安婦問題は朴政権発足時から日韓間の最大の懸案となってきただけに、合意が日韓関係全般にもたらした好影響は極めて大きかった。

 慰安婦合意を契機に日韓両国は関係改善の動きを加速させた。特に北朝鮮の脅威に対抗するため先月、日韓は軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結した。安全保障面での連携が不可欠なこの時期、高く評価すべきだろう。

日韓関係に水差すな

 合意履行の放棄や合意そのものを破棄することは、1年前に国際社会に向けて約束した「最終的、不可逆的解決」にも反する。改善しつつある日韓関係に水を差すようなことがあってはならない。