ユネスコ、記憶遺産の制度改善進めよ
岸田文雄外相は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の今年の分担金など約44億円が未拠出であることを明らかにした。日本政府は、記憶遺産の選考過程の透明化が進むまで、支払いの留保を継続する方針だ。日本はユネスコに制度改善を強く促す必要がある。
日本が分担金拠出を留保
日本は例年、予算成立後の4~5月には拠出しており、10月まで留保するのは異例だ。このことについて菅義偉官房長官は「ユネスコでは昨年、私ども政府が知らない中で、さまざまなことが決められていた。こうしたことが正常化されるかを見ながら対応を考えていきたい」と述べた。
記憶遺産をめぐる制度改善が分担金拠出の条件になるとの認識だ。中国の申請した「南京事件」の関連資料が昨年10月、記憶遺産に登録されたことが念頭にある。
南京事件をめぐっては、中国が「犠牲者30万人」などとする主張を展開している。しかし、日本政府は「犠牲者数は諸説あり、確定していない」との立場だ。記憶遺産に登録された資料に関しても「完全性や真正性に問題があることは明らか」としている。
中国の狙いが、日本の「負の歴史」を宣伝し、国際社会で日本を貶めることであるのは間違いない。記憶遺産の政治利用は容認できない。
また、記憶遺産の選考過程にも問題がある。記憶遺産は、各国の申請案件を国際諮問委員会が希少性や真実性の観点から審査し、登録の是非を事務局長に勧告。事務局長が承認して決定する仕組みだ。
ところが、世界文化遺産などの審査と違い、選考過程は公開されておらず、関係国が意見を述べる機会もない。国によって見解が分かれる事案について、調整する体制が整っていないのが実情だ。
こうした制度を改善しなければ、今後も中国のような政治利用を防げない。日本が審査の中立性や透明性の確保を求めるのは当然だ。今回の分担金拠出留保の背景には、制度改善の行方が不透明なことがあろう。ユネスコは改革を急がなければならない。
分担金の支払いは加盟国に義務付けられており、日本の分担比率は9・6%に上る。ただ、22%の米国がパレスチナの加盟に反発し、分担金拠出を凍結しているため、日本の金額は事実上1位となっている。
もっとも、日米両国が支払いを凍結、留保し続ければ、中国がその分を肩代わりし、ユネスコでの発言権を強める可能性がある。ユネスコのボコバ事務局長は昨年9月の北京での抗日戦争勝利記念行事にも出席するなど「中国寄り」と指摘される。中国の政治利用を防ぐには、制度改善の必要性について国際社会への情報発信を強化しなければならない。
中国に毅然たる対応を
南京事件に関しては、中国の一方的な主張に対し、日本が説得力のある反論を行ってこなかった面も否めない。日本を貶めるような動きには毅然(きぜん)とした対応が求められる。中国の「世論戦」に備えるべきだ。