日ソ宣言60年、首相は領土問題で妥協するな


 日ソ共同宣言の署名から60年を迎えた。この宣言によって両国間の戦争状態は終結し、国交を回復した。だが、ロシアが北方四島を不法占拠している事実を認めていないため、国境の画定には至らず、いまだに平和条約を締結できていない。全てはロシア側の責任であることを強調したい。

 プーチン氏が12月に来日

 安倍晋三首相は12月15日に自らの地元である山口県長門市にロシアのプーチン大統領を迎え、首脳会談を行う。その時、首相は妥協してはならない。歯舞、色丹、択捉、国後の返還がなければ、平和条約締結を含む日露関係の正常化はあり得ないことを大統領に明確に伝えるべきである。このことをいくたびとなくロシア側に強調するのが日露関係の基本であることを忘れてはならない。

 日ソ共同宣言は1956年10月19日、当時の鳩山一郎首相とブルガーニン首相がモスクワで署名した。プーチン氏はこの宣言を基に歯舞、色丹の2島のみの返還で幕引きを図ろうとしている。宣言は確かに、平和条約締結後に歯舞、色丹を引き渡すと明記している。

 しかし、1993年に日露首脳が署名した東京宣言には「4島の帰属を法と正義の原則で解決する」とある。そして2001年のイルクーツク声明は、日ソ共同宣言が日露交渉の出発点を記した「基本的文書である」ことを確認し、東京宣言に基づいて4島の帰属問題を解決するとうたっている。

 プーチン氏は2島だけを引き渡す一方、日本から経済協力を引き出そうとしている。その証拠に、今回の訪日には経済閣僚や多くの主要企業幹部らを随行させる見通しだ。要するに領土交渉の色彩をできるだけ薄め、経済関係の日露間合意を山口会談の「成果」として演出しようとする思惑だ。

 しかも2島引き渡しについても、ロシア側はいろいろな条件を付けている。例えば、プーチン氏は日ソ共同宣言について「島を引き渡すが、主権を引き渡すとは書いていない」という独自の解釈を繰り返している。これでは、返還される北方領土が「4島」でも「2島」でもなく「0島」ということになってしまう。

 これはロシア国内に根強い返還反対論があるためだ。5月に行われたロシアでの世論調査では、2島引き渡しに71%が反対した。こうした事情を踏まえた場合、「4島返還」を悲願とする日本側と、原則「0島返還」のロシア側との間で歩み寄りが果たして可能か、が最大の問題点である。

 経済の「食い逃げ」許すな

 ロシアはウクライナ問題などで欧米との対立が深まっており、対露経済制裁が解除される見通しは立っていない。中国などアジア諸国との経済関係を強化する「東方重視政策」も軌道に乗っていない。

 そうなると頼みは日本だ。安倍首相はロシア側に極東開発を含めた8項目の対露経済協力を提示している。領土交渉を有利な方向に進める狙いだが、領土問題を忘れた形で経済協力が行われ、ロシア側に「食い逃げ」を許すことがあってはならない。